著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Milbank Quarterly

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を論じた文章か

この論文は新たな実験や調査の報告ではなく、著者らが以前に発表した論文に寄せられた反論への応答です。論点は、超加工食品(工業的に配合・製造された加工度の高い食品)をめぐる公衆衛生政策をどう考えるかです。

著者らはまず、食事の質を高めることが公衆衛生の中心的な目標であるべきだという点には強く同意すると述べています。加工度が低く、食物繊維を含み、多様な食品に富む食事は、より良い健康状態と関連しており、腸内の微生物環境を健全に保つ助けになる可能性もある、と著者らは記しています。

そのうえで著者らが問題にしたのは、反論が「健康的な食事を勧めること」と「超加工食品の依存を招くような設計に取り組むこと」を、別々の、あるいは両立しない課題のように扱っている点です。著者らはこれを「誤った二者択一」と呼んでいます。

「健康的に食べよう」だけでは足りないという主張

著者らによれば、公衆衛生はこの数十年「もっと健康的に食べよう」と呼びかけてきました。しかし同じ時期に、食の環境には、強い満足感や手軽さ、食べ過ぎを最大化するよう設計された工業製品があふれるようになったといいます。これらは素早く食べられ、非常においしく感じられ、大々的に宣伝され、ストレスや時間不足、繰り返し目にする刺激のもとでは抵抗しにくいものだと著者らは述べています。さらに「植物由来」「腸の健康」「高たんぱく」といった健康志向の宣伝が加わり、本当に栄養になる食品と、食べ過ぎを促すよう最適化された製品との区別がつきにくくなっていると指摘しています。

著者らはたばこを例に挙げます。喫煙による病気への対策は、たばこの煙が充満した空気を放置したまま「きれいな空気を吸いましょう」と呼びかけるだけでは成り立たなかったはずだ、というたとえです。同じように、製品の設計や市場での優勢を問わずに健康的な食事だけを勧めれば、負担をすべて個人の判断に押しつけ、背後にある商業的な要因を手つかずにしてしまうおそれがある、と著者らは論じています。

一方で著者らは、一部の超加工食品に依存的な性質を認めることは、健康的な食事を勧める大切さを否定するものではないと強調しています。両者は競合するのではなく補い合うものであり、手ごろで栄養のある食品を手に入れやすくすることと、強い欲求や衝動的な摂取を引き起こすよう設計された製品の優勢を弱めることを、同時に進めるべきだという立場です。

依存の科学をめぐる反論への応答

反論の側は、離脱症状(やめたときに現れる不調)や耐性(同じ効果を得るのに量が増えていくこと)について確かな証拠がないことを根拠に、超加工食品に依存の考え方を当てはめることに疑問を示していたと、著者らは受け止めています。これに対し著者らは、離脱や耐性は歴史的に、依存性を判断するための必要条件でも十分条件でもなかったと反論しています。

その例として著者らは、たばこを依存性があると結論づけた1988年の米国公衆衛生局長官報告が、顕著な離脱症状や耐性の存在を条件としていなかったことを挙げています。また、コカインには典型的な身体的離脱症状がなく、ニコチンの耐性は際限なく強まるのではなく頭打ちになるため、両者は長いあいだ「習慣性があるだけ」と分類されていたといいます。この議論は、依存の理解がアヘン類をもとにした「耐性と離脱」の型を超えて、衝動的な使用、強い欲求、制御の困難、害があっても使い続けること、強い報酬効果などを重視する枠組みへ広がったことで決着した、と著者らは説明しています。

さらに著者らは、動物と人の研究で超加工食品に関連する離脱や耐性に似た過程を示す証拠もあると述べています。人々は強い欲求、減らそうとして何度も失敗すること、制御の喪失、悪影響があっても食べ続けることなど、依存症の特徴に似た体験を報告しているといいます。反論が引用した研究については、依存的な食べ方を示す人を対象に離脱や耐性を調べる設計ではなかったため、この問いに答えられないと指摘しています。依存のなりやすさは生物学的・発達的・心理的・環境的な要因で人によって大きく異なり、幅広く集めた対象者に離脱のような反応が見られなかったことを、製品群の依存性を否定する証拠とは解釈できない、というのが著者らの見方です。

この応答が伝えること

著者らは、すべての超加工食品が同じだとも、個人に選択の力がないとも言っていないと断っています。主張の核心は、高度に設計された製品があふれる環境では、栄養のある食べ方を続けることが集団全体として大幅に難しくなりうる、という点です。たばこ対策の歴史を引くのも、たばこと超加工食品が同じ製品だからではなく、どちらの産業も繰り返しの使用に向けて製品を最適化しながら、個人の責任や科学的な不確かさを強調してきたからだと著者らは説明しています。

著者らの結論は、教育だけでは十分な成果は見込みにくく、本当に栄養になる食品を広めることと、それを妨げる商業的な仕組みや製品設計を批判的に検討することの両方が必要だというものです。「健康的な食事か、依存性のある食品への対策か」という二者択一ではなく、両方を同時に進める視点を示した応答だといえます。

原著論文の著者・所属:ASHLEY N. GEARHARDT(University of Michigan)、KELLY D. BROWNELL(<i>Sanford School of Public Policy</i> Duke University)、ALLAN M. BRANDT(Harvard University, US)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):ASHLEY N. GEARHARDT, KELLY D. BROWNELL, ALLAN M. BRANDT. Beyond False Dichotomies in Ultra‐Processed Food Policy. Milbank Quarterly 2026-08-14. DOI: 10.1111/1468-0009.70119. 原著ライセンス:CC BY.