著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。

掲載誌:Proceedings of The Nutrition Society

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

栄養の伝え方にある二つの物差し

食品の栄養的な価値を伝える方法には、これまで大きく二つの流れがありました。一つは穀物、果物・野菜、乳製品といった食品群に注目し、食事全体の中でのバランスを勧める方法で、食事ガイドの皿やピラミッドの図がその例です。もう一つは、炭水化物、たんぱく質、脂質、食物繊維などの成分量やエネルギー量に基づく方法で、食品の栄養成分表示がその代表です。

この総説の著者は、どちらの方法にも弱点があると指摘します。成分量だけでは、栄養素が消化管のどこで、どのくらいの速さで吸収されるのかが分かりません。食品群による分類では、同じ種類の食品でも形態が違えば体への影響が変わるという点を区別できません。たとえばナッツは、丈夫な組織構造によって脂質の一部が消化から守られるため、成分量だけから計算すると、体が実際に利用できるエネルギーが多めに見積もられてしまいます。

著者によると、二つの方法のずれを埋めるように、特定の食事法や「超加工食品」という分類が「健康的か不健康か」の判断基準として広まってきました。そこでこの総説は二つの目的を掲げています。一つ目は、成分組成に「消化物の動態(digesta dynamics)」という視点を組み合わせると、未加工または加工の少ない食品を中心とした食事が慢性疾患のリスク低下と関連する理由を説明できるかを検討することです。二つ目は、「超加工食品」という言葉が、一般向けの栄養メッセージでは有用な「ブランド」として働く一方、個々の食品の栄養価を分類する用語としては適切でないのではないか、という考えを検討することです。

口から大腸まで、時間の流れで消化を見る

「消化物の動態」とは、食べたものが口、胃、小腸、大腸の各段階を通過する時間と、その間に栄養素が放出・吸収される速さとの関係を、食品の構造や組成と結びつけてとらえる考え方です。著者は、各段階の生化学的な仕組み自体はよく分かっているものの、栄養学ではそれが起こる時間の長さや、前の段階が次の段階に与える影響があまり考慮されてこなかったと述べています。

口の中では、かむことで食品が細かくなり、唾液と混ざります。かみ砕かれるほど栄養素は消化されやすくなり、とくに栄養素が細胞の中に閉じ込められている未加工の食品でその影響が大きくなります。かみやすい食感の食品は食べる速さが増し、多く食べやすいことも紹介されています。液体は口にとどまる時間が短いため、そのままでは食べきれない量の果物でも、ジュースなら簡単に飲めてしまいます。

胃から小腸へ進むには、固形物はおよそ1〜2ミリメートルまで小さくなる必要があり、粘り気も胃から出る速さを左右します。全粒穀物や、胃の酸性環境で固まる乳たんぱく質のカゼインは、胃にとどまる時間が長くなる例として挙げられています。小腸では、細胞壁に包まれた植物細胞が消化酵素の働きを妨げたり遅らせたりします。その結果、ゆっくり吸収された栄養素は小腸の後半まで届き、満腹感に関わるGLP-1などのホルモンを出す刺激になります。同じ組成でも、細胞が壊れていない豆類の食品とペースト状にした食品とでは、吸収の速さやホルモンの反応に大きな差が出ることが報告されています。

小腸で消化されずに残った栄養素は大腸へ送られ、腸内細菌による発酵の材料になります。細菌がつくる酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸は、腸内環境を保ち、腸の細胞の燃料にもなります。著者は、さまざまな植物性食品に含まれる多様な細胞壁成分によって、大腸の奥まで発酵が続く状態が理想的だと考えています。一方、加工食品に添加される食物繊維は単一の種類で、すぐに発酵されやすいものが多いと指摘しています。

全体として著者は、加工によって口や胃を通る時間が短くなり、小腸での消化が速まり、小腸の終わりまで残る未消化物が減り、大腸での発酵も速くなる傾向があると整理しています。

工場か台所かより、体の中での振る舞い

超加工食品の摂取と病気のリスクとの関連については、主に三つの仕組みが提案されています。砂糖・飽和脂肪・塩などの好ましくない栄養素が多いこと、食品の構造(マトリックス)が壊れやすいこと、そして工業的な添加物です。著者は、一つ目は大きな要因であることがほぼ確かで、二つ目は消化物の動態を通じて栄養価に影響すると述べています。一方、三つ目の添加物については、規制機関が安全性を評価しており、慢性疾患のリスクを直接高めるという説得力のある証拠はないとしています。

こうした整理から著者は、加工の影響が消化物の動態の変化を通じて現れるのであれば、工場で加工された食品と、台所で同じように加工された食品とを区別する理由はないと論じています。加工食品の摂取を減らし、未加工の食品や家庭で調理した食事を増やせば栄養状態が良くなることには疑いがないとしつつ、工場製と台所製を分ける信頼できる仕組みがない以上、「超加工食品」は食品を分類する用語ではなく、定性的・記述的な言葉として使うべきだと述べています。

栄養の伝え方としては、ジュースと果物そのものの比較が分かりやすい例として示されています。リンゴやオレンジを2〜3個食べるのは難しくても、同じ量から作ったジュースなら果肉入りでもすぐに飲めてしまいます。また、小麦やひよこ豆の食品では、粒子が大きいほどでんぷん由来のブドウ糖の吸収がゆっくりになり、ひよこ豆では満腹感に関わるホルモンの分泌が増えることも紹介されています。著者は、食事にかける時間を意識することや、食べやすく作られた食品は食べ過ぎやすいことを伝えるきっかけにもなると述べています。

この総説が示すこと

この総説は、栄養素の量だけでも食品の種類だけでもとらえきれない食品の価値を、「体の中でどのくらいの速さで、どこまで分解・吸収・発酵されるか」という時間の視点でつなぐ枠組みを提案しています。ただし著者自身も、この考え方は現時点では数値で予測できる段階にはなく、主に説明のための概念だと認めています。そのため、食事ガイドの皿やピラミッドを補い、加工の少ない食品をバランスよく組み合わせることの利点を説明する道具として位置づけています。

著者の主張の要点は、食品が工場で作られたか台所で作られたかではなく、栄養成分と体内での振る舞いの組み合わせに目を向けることで、健康との関係をより筋道立てて理解し、伝えられるという点にあります。

原著論文の著者・所属:Michael J. Gidley(The University of Queensland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Michael J. Gidley. Digesta dynamics, nutrition messaging and (ultra)processed food. Proceedings of The Nutrition Society 2026-08-11. DOI: 10.1017/s0029665126105436. 原著ライセンス:CC BY.