この研究は、ブラジル、チリの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品に含まれる油脂は時間がたつと酸化して品質が落ちるため、これを遅らせる目的でBHT(ブチルヒドロキシトルエン)やBHA(ブチルヒドロキシアニソール)といった合成の酸化防止剤が広く使われてきました。一方で、合成保存料を長く摂り続けることへの懸念や、自然由来の原材料を好む消費者の志向を背景に、植物から得られる成分を代わりに使えないかという関心が高まっています。

研究チームが着目したのは、アマゾン原産の二つの果実、トゥクマ(Astrocaryum vulgare)とウシ(Endopleura uchi)です。どちらもアマゾン地域で古くから食べられ、栄養面での価値が知られていますが、成分の構成は大きく異なるとされてきました。著者らは、これまで両者を別々に調べた研究はあっても、成分分析・脂肪酸組成・クロマトグラフィーによる成分の分離・複数の抗酸化試験を組み合わせて直接比較した例は少ないと指摘しています。

そこで論文は、成分構成の違いが抗酸化のはたらき方の違いにどうつながるのかを明らかにし、両果実が天然の酸化防止素材となりうるかを検討することを目的としました。著者らはあらかじめ、成分構成が異なる二つの果実は、電子の受け渡しやラジカル(不安定で反応しやすい分子)の消去など、仕組みの異なる試験で異なる反応パターンを示すだろうという仮説を立てています。

何をどう調べたか

研究チームは、ブラジル・アマパー州で採取・入手した完熟果実の可食部を凍結乾燥し、70%エタノールに浸して抽出物をつくりました。この抽出物について、総ポリフェノール量(フォリン・チオカルトー法)と総フラボノイド量を測定し、果肉から取り出した脂質はガスクロマトグラフィーで脂肪酸の組成を調べています。

さらに、高速液体クロマトグラフィー(HPLC-DAD)で抽出物に含まれる成分を分離し、保持時間と紫外・可視吸収スペクトルをもとに主要な成分を推定しました。著者ら自身が、この同定はあくまで推定であり、報告した濃度も半定量的な推定値であって確定した絶対濃度ではないと明記しています。

抗酸化のはたらきは、仕組みの異なる複数の試験で評価されました。鉄イオンを還元する力を見るFRAP、複数の反応を合わせて総合的な抗酸化能を見る総抗酸化能(TAC)、そしてDPPHという安定なラジカルをどれだけ消去できるかを見る試験です。DPPH試験では、比較対照として合成酸化防止剤のBHTが用いられました。

報告された主な結果

総ポリフェノール量はトゥクマが抽出物1グラムあたり36.21ミリグラム(没食子酸相当量)、ウシが31.56ミリグラムで、トゥクマの方が有意に多いと報告されています。差がより大きかったのはフラボノイドで、トゥクマの16.16ミリグラム(ケルセチン相当量)に対しウシは5.68ミリグラムでした。

脂肪酸の組成は両者で大きく異なりました。比較できた12種類のうち10種類に有意差があり、トゥクマではトランス型リノール酸が64.03%と最も多く、次いでパルミチン酸が28.63%を占めました。ウシではシス型オレイン酸が58.85%と最も多く、パルミチン酸18.32%、ステアリン酸8.21%が続きます。オレイン酸のような一価不飽和脂肪酸が多い組成は酸化に強い傾向があるとされますが、著者らは本研究で酸化安定性を直接測る試験(ランシマット法など)を行っていないため、この点は仮説にとどまると断っています。

HPLC-DADでは、トゥクマの方が複雑な成分パターンを示し、主要な四つのピークはクエン酸、没食子酸、そして二つのケルセチン系配糖体と推定されました。一方ウシは単純な形で、没食子酸と推定される一つの大きなピークが目立ちました。

抗酸化試験の結果は一様ではありませんでした。FRAPではウシ(抽出物1グラムあたり0.41ミリモルの鉄イオン相当量)がトゥクマ(0.18ミリモル)を有意に上回り、電子を供与する力が強いことが示されました。DPPH試験では両抽出物とも濃度が高いほど効果が増し、100 mg/L以上ではウシがトゥクマを有意に上回り、最高濃度での消去率はウシ約29.6%、トゥクマ約21.2%でした。ただしBHTはすべての濃度で両抽出物を有意に上回っています。一方、総抗酸化能(TAC)では両者に有意差がなく、ほぼ同じ値(それぞれ1グラムあたり0.592グラムと0.589グラムのアスコルビン酸相当量)でした。

総ポリフェノール量やフラボノイド量ではトゥクマが多いのに、FRAPやDPPHではウシが優れるという結果について、著者らは、抗酸化のはたらきは成分の総量だけでなく、分子の構造や電子をやりとりしやすい性質にも左右されると説明しています。ウシで多く推定された没食子酸は、芳香環に三つの水酸基をもつため電子の受け渡しに優れ、FRAPのような試験で効果を発揮しやすいことが知られています。ただし著者らは、本研究が二種の果実を比べたものである以上、この関係は定性的な対応であって統計的に検証された相関ではないと述べています。

この研究が示すこと

同じアマゾンの生態系に育つ二つの果実が、成分の顔つきも抗酸化のはたらき方も大きく異なることを、複数の試験を組み合わせることで具体的に描き出した点が、この研究の中心的な成果です。著者らは、ウシは還元力やラジカル消去が求められる場面に、トゥクマはより多様な成分を備える素材として、それぞれ異なる役割を果たしうると述べています。

同時にこの結果は、抗酸化の力を「ポリフェノールが何ミリグラム含まれるか」という一つの数字だけで語ることの限界も示しています。どの成分がどんな構造をもち、どの仕組みで働くのか。複数の試験を並べて初めて、植物抽出物の性格が見えてくる——著者らが繰り返し強調しているのは、この評価のしかたそのものの重要性です。

著者:Naikita Suellen da Silva e Silva(Organic Chemistry and Biochemistry Laboratory Amapá State University (UEAP) Macapá Brazil)、Thaís Oliveira Freitas(Organic Chemistry and Biochemistry Laboratory Amapá State University (UEAP) Macapá Brazil)、Ana Paula Barros Soares(Organic Chemistry and Biochemistry Laboratory Amapá State University (UEAP) Macapá Brazil)、Bruna Sumaya Dias Pinheiro(Organic Chemistry and Biochemistry Laboratory Amapá State University (UEAP) Macapá Brazil)、Saulo Victor e Silva(Department of Food Science and Nutrition University of Antofagasta Antofagasta Chile)、Anelise Christ-Ribeiro(School of Chemistry and Food Federal University of Rio Grande (FURG) Rio Grande Brazil)、Jefferson Romáryo Duarte da Luz(College of Biological Sciences Federal University of Amapá (UNIFAP) Oiapoque Brazil)、Gabriel Araújo‐Silva(Organic Chemistry and Biochemistry Laboratory Amapá State University (UEAP) Macapá Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Naikita Suellen da Silva e Silva, Thaís Oliveira Freitas, Ana Paula Barros Soares, et al. Phytochemical Characterization and Antioxidant Mechanisms of Amazonian Tucumã ( Astrocaryum vulgare ) and Uxi ( Endopleura uchi ) Pulps Support Their Potential as Natural Food Preservatives. Journal of Food Science 2026-09-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71476. 原著ライセンス:CC BY.