南米アマゾンの熱帯雨林には、まだ栄養価や機能性が十分に調べられていない野生の果実が数多く存在します。ボリビア北部のアマゾン地域で「マホ」と呼ばれるヤシ科植物Oenocarpus batauaの果実もその一つです。この果実は収穫後7~8日で劣化が始まるほど傷みやすく、電力や加工設備が限られる農村部では活用が難しいという課題を抱えています。今回、ボリビアのウニベルシダ・カトリカ・ボリビアーナ「サン・パブロ」大学などの研究チームが、この果実の栄養成分や抗酸化力、食物繊維の性質を詳しく調べ、保存方法による違いを検証した研究をフーズ誌に発表しました(2026年8月掲載予定)。
果肉の色が異なる2つのタイプを比較
研究チームはボリビア北部パンド県のトリンチェラとヘリコという2つの農村から、2025年4月の収穫期にマホの果実を採取しました。この地域では同じ種でありながら、外見が濃い紫色をした従来型と、色の薄いタイプという2つの「形態型」が同じ場所に混在していることが知られています。研究では収集地と形態型の組み合わせごとに、DPJ(ヘリコ産・濃紫)、PCJ(ヘリコ産・淡色)、DPT(トリンチェラ産・濃紫)、PCT(トリンチェラ産・淡色)という4種類のサンプルを用意し、果肉と果皮を合わせて分析しました。
一般成分を調べたところ、乾燥重量あたりの粗脂質含量はいずれのサンプルもおよそ49%に達し、果実の半分近くを脂質が占めるという、かなり油分の多い果実であることが確認されました。これはペルー産マホの先行研究(粗脂質約47%)とも近い値で、著者らはこの高い油分含量がマホという種に共通する特徴である可能性を指摘しています。一方でタンパク質は7.13~9.73%、炭水化物は比較的少なく、これは油分をエネルギー源として蓄える性質を持つアマゾン産のヤシ果実に共通する組成だとされています。形態型・産地による違いも見られ、ヘリコ産の濃紫タイプ(DPJ)はタンパク質と粗繊維の含量が最も高く、ヘリコ産の淡色タイプ(PCJ)は炭水化物含量が最も高く脂質は最も低いという結果でした。
抗酸化力は保存方法で大きく変わる
抗酸化力はDPPH法という手法で測定されました。冷凍解凍しただけの未加工の果肉(FT対照区)では、乾物1gあたり2003~2070マイクロモル(トロロックス当量)という高い値を示しましたが、フリーズドライ(凍結乾燥)にすると約35%低下し、さらに熱風乾燥(45℃・55℃)ではそれ以上に低下することが分かりました。特に55℃の熱風乾燥では、淡色タイプ(PCT)で653.65マイクロモルまで落ち込むなど、加熱による酸化物質の分解が顕著でした。統計解析(三元配置分散分析)では、保存方法・形態型・収集地のいずれもが抗酸化力に有意な影響を与えており、なかでも保存方法の影響が最も大きいことが示されました。また形態型では濃紫タイプが淡色タイプより一貫して高い抗酸化力を示し、産地別ではヘリコ産がトリンチェラ産より高い値を示しました。著者らは、この違いがアントシアニンなどの色素由来の成分の蓄積量や、土壌・日照といった環境条件の違いに関連している可能性を挙げていますが、本研究では個々の成分そのものは定量されておらず、あくまで抗酸化力の測定にとどまる点が明記されています。
際立って多い食物繊維と、冷凍保存による変化
食物繊維の分析は、ヘリコ産の濃紫タイプに絞って行われました。酵素重量法(AOAC 2011.25法に準拠)で測定した結果、冷凍から10日以内の短期保存では総食物繊維量が61.60%に達し、そのうち大部分(56.28%)が不溶性食物繊維でした。この値は一般的な植物由来の食品(リンゴやバナナ、オーツ麦など)と比べてもかなり高く、著者らはむしろ食品加工の副産物に近い水準だと述べています。
一方、−20℃で6か月以上の長期冷凍保存を行うと、不溶性食物繊維は56.28%から30.90%へと約45%減少し、それに伴って水分保持能力(1gあたり4.43gから3.17gの水を保持する力)や膨潤力(1gあたり13.95mLから9.62mLへ)も低下しました。可溶性食物繊維の量はほとんど変化しなかったため、不溶性から可溶性への単純な変換ではなく、氷結晶の成長による細胞壁の物理的な破壊や、細胞内に閉じ込められていた酵素(セルラーゼやペクチナーゼなど)の放出によって、繊維の構造がより小さな断片へと分解された可能性が考察されています。この構造変化は赤外分光法(FTIR)でも確認されており、多糖やリグノセルロース由来の吸収帯は保たれていたものの、長期保存後のスペクトルは短期保存に比べて構造の複雑さが失われていました。研究チームは、この高い食物繊維含量が、現地で消化促進や胃もたれの緩和のために飲まれてきた「マホミルク」という伝統的な飲料の効能を裏付ける可能性があるとしていますが、これはあくまで示唆であり、本研究で直接検証されたものではありません。
この研究の位置づけ
今回の食物繊維や機能特性、FTIR分析はヘリコ産の濃紫タイプのみを対象に行われており、著者ら自身も、他の形態型や産地に一般化するにはさらなる研究が必要だと述べています。また抗酸化力についてはDPPH法という一つの指標にとどまっており、著者らは今後ABTSやFRAPなど複数の抗酸化能測定法や、フェノール化合物・アントシアニンの定量分析を組み合わせた、より包括的な研究が必要だとしています。乾燥処理の終点についても、熱風乾燥では重量が一定になった時点を基準としており、最終的な水分含量そのものは測定されていない点も限界として挙げられています。今回の結果は、ボリビア産マホが機能性食品の原料として活用できる可能性を示すものですが、一つの研究で得られた知見であり、健康への効果を保証するものではありません。
この研究では、ブラジルナッツやアサイーの加工施設が既にある地域のインフラを活用してマホの加工を組み込むことで、地域経済への貢献につながる可能性にも触れられています。傷みやすい果実をどう保存し、価値ある食品資源として活かすかという課題は、日本を含む世界各地の農産物流通にも通じるテーマといえるでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Rosa Fabiana Zabalaga-Davila, Daniela Sejas Pérez, Brenda Fortunata Villena Vargas, et al. Proximate Composition, Antioxidant Capacity, and Dietary Fiber Functional Properties of Pulp and Peel of Two Oenocarpus bataua Morphotypes from the Bolivian Amazon: Effects of Preservation Methods and Frozen Storage. フーズ誌 (2026). DOI: 10.3390/foods15162819. 原著ライセンス: cc-by.