動物の赤ちゃんは生まれた瞬間、腸の中はほぼ無菌に近い状態です。そこから母乳や周囲の環境を通じてさまざまな微生物を取り込み、腸内細菌叢(腸内フローラ)が少しずつ形づくられていきます。この腸内細菌叢は、栄養の吸収や体の発達、代謝の調節に深く関わっていると考えられており、人だけでなく家畜や動物園動物などさまざまな動物種で研究が進められています。今回紹介するのは、ロバの子(子ロバ)を対象に、生まれてから最初の1ヶ月間で腸内細菌叢と代謝物(体の中でつくられる化学物質)がどのように変化するのかを調べた研究です。母ロバの菌叢とも比較することで、子ロバの腸内環境がどの程度母親に似ていくのかを検討しています。
研究でわかったこと
研究チームは、母ロバ10頭(MFグループ)、初乳を飲む前の新生子ロバ10頭(DF_0グループ)、そして同じ子ロバが生後30日になった時点(DF_30グループ)の糞便を採取しました。細菌叢については16S rRNA遺伝子という手法で、代謝物についてはLC-MS/MSという分析機器を用いた非標的メタボローム解析(特定の物質に絞らず幅広く検出する手法)で調べています。
その結果、初乳を飲む前の新生子ロバ(DF_0)では「Pseudomonadota(プロテオバクテリア門)」や「Actinomycetota(放線菌門)」と呼ばれる細菌のグループが比較的多く見られたのに対し、生後30日の子ロバ(DF_30)では「Bacillota(フィルミクテス門)」や「Bacteroidota(バクテロイデス門)」というグループが増えており、「Christensenellaceae_R-7_group」や「Akkermansia(アッカーマンシア属)」という特定の細菌も増加していたと報告されています。また、細菌の種類の豊富さを示す指標(ACEやChao指数)は、DF_30グループの方が母ロバやDF_0グループよりも低い値を示したとのことです。腸内細菌叢全体の構成(ベータ多様性)についても、3つのグループ間で統計的に有意な違いが見られました。
興味深いことに、生後30日の子ロバの腸内細菌叢は、母ロバの細菌叢と部分的に似た傾向を示しつつも、完全には一致せず、依然として異なる構成を保っていたとされています。研究チームは、こうした変化のパターンは成長段階に応じた腸内細菌の発達と一致するものの、今回の研究デザインだけでは、継続的な成熟の道筋や母親から子への直接的な菌の伝播を証明することはできないと述べています。
代謝物の分析では、合計11,894種類の代謝物の特徴(シグナル)が検出され、そのうち1570種類について推定の同定(どの物質かの見当をつけること)が行われました。KEGGというデータベースを用いた解析では、ステロイド生合成、ステロイドホルモン生合成、一次胆汁酸生合成といった代謝経路に関わる物質が、グループ間の比較で有意に多く見られたとされています。さらに、7-デヒドロデスモステロール、11-オキソオクタデカン酸、7,8-ジヒドロプテロイン酸、3-O-β-D-グルコシル-ブラシカステロールという4種類の推定同定物質についても、グループ間で有意な差が認められたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
研究チーム自身も述べているように、これらの代謝物の同定は標準品(真正な化学物質のサンプル)を用いて確認されたものではなく、あくまで推定にとどまります。また、この研究は細菌叢や代謝物の変化と成長段階との「関連」を示したものであり、因果関係を証明したものではありません。生物学的な意味づけについては、今後さらに的を絞った検証や作用機序の解明が必要だとされています。今回の結果は、子ロバの生後1ヶ月における腸内細菌叢と代謝の変化に関する探索的な基礎情報という位置づけであり、この一つの研究だけで結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
まとめ
この研究では、生まれたばかりの子ロバと生後30日の子ロバ、そして母ロバの腸内細菌叢や代謝物を比較し、成長段階に応じた変化のパターンが観察されました。生後30日の子ロバの腸内環境は母ロバに部分的に近づく傾向がある一方で、完全に同じにはならないことが示唆されています。腸内細菌叢の発達がどのように動物の健康や成長に関わっていくのか、今後のさらなる研究の進展が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:新生子ロバの初期腸内細菌叢と代謝プロファイルおよび母親由来菌叢との比較研究(マイクロオーガニズムズ・2026年08月)