この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of the International Society of Sports Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
eスポーツの競技では、長時間の集中によって脳が疲れる「精神的疲労(メンタル・ファティーグ)」が起こり、プレーの精度が落ちると考えられています。この研究で研究チームは、精神的疲労が生じた後のeスポーツ選手が、競技に必要な中核的な能力をどの程度取り戻せるのかを、複数の栄養補助食品の間で比較することを目的としました。
あわせて、栄養補助食品を摂取した後の回復過程で、自律神経の働きがどう変化するかを観察することも目的に挙げられています。自律神経は、心拍や呼吸など意識せずに働く体の調節を担う神経で、研究チームはその状態を心拍変動(HRV:心拍の間隔のゆらぎ)の指標から評価しました。
何をどのように調べたか
研究チームは、高いレベルのFPS(一人称視点のシューティングゲーム)選手20名を対象としました。用いられたのは、参加者全員がすべての条件を順番に経験する「ランダム化クロスオーバー被験者内比較」と呼ばれる設計です。比較した栄養補助食品はカフェイン、硝酸塩、イチョウ葉エキス、カテキン、そして有効成分を含まないプラセボ(偽薬)の5条件で、それぞれについて初期状態・疲労状態・摂取後の3つの時点が設けられました。
精神的疲労は、文字の色と意味が食い違う課題に答え続ける「ストループ課題」によって誘発されました。参加者は各条件の補助食品を摂取して60分間休息したのち、エイム練習ソフト「KovaaK's」を用いて、射撃の正確性、射撃の安定性、空間定位、マルチタスク能力という4つの能力を測定しました。並行してHRVの指標も記録されています。
報告された主な結果
論文の結論によれば、精神的疲労はeスポーツ選手の競技パフォーマンスを有意に低下させました。その上で、4種類の栄養補助食品はいずれも射撃の正確性の回復を促したと報告されています。射撃の安定性については、カフェイン、硝酸塩、カテキンが回復を促した一方、これら3種類の間には有意な差は認められませんでした。
これに対し、空間定位とマルチタスク能力では、摂取後に見られた改善は自然な回復によるものである可能性があるとされ、4種類のいずれについてもプラセボを上回る回復効果は確認されませんでした。HRVについては、RMSSDやSDNNといった指標が一部の補助食品の条件下で変化したと報告されています。著者らは、この変化が回復中の自律神経調節の変化を反映している可能性はあるものの、さらなる研究が必要だと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、精神的疲労後の回復を一括りにせず、能力の種類ごとに分けて検討した点に特徴があります。報告された結果は、栄養補助食品による回復の後押しが射撃の正確性や安定性といった能力に限られ、空間定位やマルチタスク能力ではプラセボと区別できなかったことを示しています。回復といっても中身は一様ではない、という視点を示した研究だといえます。
著者:Yiyuan Chong(School of Sports Training, Wuhan Sports University)、Mengli Wei(School of Sports Training, Wuhan Sports University)、Jun Tu(School of Sports Training, Wuhan Sports University)、Ziyang Li(School of Sports Training, Wuhan Sports University)、Minghui Li(School of Sports Training, Wuhan Sports University)、Yaping Zhong(School of Sports Training, Wuhan Sports University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yiyuan Chong, Mengli Wei, Jun Tu, et al. A study on the differences in recovery effects of different types of nutritional supplements on competitive performance of esports athletes under mental fatigue. Journal of the International Society of Sports Nutrition 2026-09-09. DOI: 10.1080/15502783.2026.2728354. 原著ライセンス:CC BY.