この研究は、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of the American Society of Brewing Chemists

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

スコッチウイスキーの製造では、粉砕した穀物(グリスト)を糖化した後、溶け残った不溶性の固形分を取り除き、透明な糖液(ウォート)だけを発酵に回すのが一般的です。これに対し、不溶性の固形分を取り除かずに発酵、さらには蒸留の工程まで持ち込む「All Grains In(AGI、全穀物投入)」と呼ばれる手法があります。

研究チームによれば、スコットランドをはじめ各地でAGI方式は主にグレーンウイスキーの製造に用いられてきましたが、独特の香気成分を生み出す可能性や、ろ過を伴う工程に比べた製造効率の改善への関心が高まっています。また、ライ麦のように加工上の難しさが知られる穀物にこの手法を適用できるかにも関心が寄せられています。本研究は、大麦麦芽とライ麦麦芽の配合比率を変えたグリストについて、AGI方式が工程効率ともろみの品質にどのような影響を与えるかを、従来のろ過方式と比べて明らかにすることを目的としています。

調べ方

著者らは、実験室規模とパイロット規模の両方で糖化(マッシング)を行い、ろ過方式とAGI方式のそれぞれでもろみを調製しました。その上で、発酵の進み具合を示す各種の指標を114時間にわたって追跡し、両方式を比較しています。

報告された主な結果

論文によれば、ろ過方式と比べてAGI方式の発酵では、得られたもろみのエタノール収量が高くなりました。大麦麦芽100%のグリストでは、ろ過方式の7.41%ABV(アルコール度数)に対し、AGI方式では8.18%ABVでした。

あわせて、pH、遊離アミノ態窒素(酵母が栄養として利用できる窒素分の指標)、粘度、発酵後に残るα-アミラーゼ(デンプンを糖に分解する酵素)の活性がいずれも高くなったと報告されています。遊離アミノ態窒素については、ライ麦麦芽100%のグリストで、ろ過方式の129.8 mg/Lに対しAGI方式では182.4 mg/Lという値が示されました。一方で、発酵後に残る発酵性糖の量は減少していました。

これらの結果から著者らは、AGI方式にはろ過したウォートを用いる場合に比べて収量面での利点がある可能性があり、とくにライ麦麦芽の比率が高いグリスト由来のウォートに適用した場合にその傾向が見られる、としています。

この研究が示すこと

穀物の固形分を取り除かずに発酵させるという工程上の選択が、アルコールの収量や酵母の栄養状態、糖の消費具合といった測定可能な指標にまとまった違いをもたらすことを、この研究は配合比率を変えながら具体的な数値で示しました。加工が難しいとされてきたライ麦を含むグリストの扱い方を考えるうえでの、一つの比較データとなる報告です。

著者:Alan Philp(International Centre for Brewing and Distilling, School of Engineering and Physical Sciences, Heriot-Watt University)、Jane White(International Centre for Brewing and Distilling, School of Engineering and Physical Sciences, Heriot-Watt University)、Nicholas Willoughby(International Centre for Brewing and Distilling, School of Engineering and Physical Sciences, Heriot-Watt University)、Neil Mathieson(Mossburn Distillers Ltd, Mossburn House)、Calum P. Holmes(International Centre for Brewing and Distilling, School of Engineering and Physical Sciences, Heriot-Watt University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alan Philp, Jane White, Nicholas Willoughby, et al. The Impact of All Grains In Fermentation Methodology on Whisky Wash Production Using Grists Comprised of Malted Barley and Malted Rye. Journal of the American Society of Brewing Chemists 2026-09-11. DOI: 10.1080/03610470.2026.2716975. 原著ライセンス:CC BY.