この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

メキシコの研究チームは、アガベ(リュウゼツラン)から採取される樹液「アグアミエル」を発酵させて得られる成分に注目し、その生物学的な働きと、食品素材として扱える形に加工できるかどうかを調べました。

この研究の鍵となるのが「ポストバイオティクス」という考え方です。生きた菌そのものを指すプロバイオティクスとは異なり、ポストバイオティクスは国際的な学会の定義によれば、生きていない微生物やその構成成分からなる調製物のうち、宿主に健康上の利益をもたらすものを指します。菌が生きている必要がないため、加工や保存の際の安定性という点で技術的な利点があると、論文は説明しています。

著者らは、乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarum(ラクチプランチバチルス・プランタルム)と、アグアミエルに由来する菌であるBacillus mojavensis(バチルス・モハベンシス)BF2a1の2株を選びました。前者は免疫調節作用などの報告が蓄積していること、後者はアグアミエル由来の菌としてプロバイオティクスの可能性が示されていることが選定理由です。アグアミエル自体が両菌の本来の生息環境であることも、組み合わせの根拠とされています。

三つの調製法と調べた内容

研究チームは、用途に応じて三通りの調製を別々に行いました。細胞実験用には、培地で発酵させた培養液を遠心分離し、0.22マイクロメートルの膜でろ過して菌体を除いた液を用いました。動物実験用には、アグアミエルで発酵させた培養液を遠心分離したのち、96℃で5分間の加熱によって菌を不活化したものを用いています(アグアミエルの成分でフィルターが目詰まりしたため、膜ろ過は行っていません)。いずれの調製についても、加熱前の試料では菌の増殖が確認された一方、加熱処理後の試料では増殖が認められず、加熱によって生きた菌が除かれたことが確認されたと報告されています。

一つ目の実験では、ヒト乳がん由来の細胞株MDA-MB-231に対して、調製した液を30%、15%、7.5%の濃度で加え、24時間後に細胞の生存率を測定しました。二つ目の実験では、雌のマウス(各群3匹、計12匹)を、水のみ、アグアミエルのみ、L. plantarum由来、B. mojavensis由来の4群に分け、飲み水に5%の濃度で8日間自由に摂取させ、その後に小腸と大腸の組織を調べました。三つ目は生物学的な実験とは独立した工程で、発酵アグアミエルをセラミック膜でろ過した液を、ガムアラビック、マルトデキストリン、乳清タンパク質分離物のそれぞれとアガベ由来フルクタンを組み合わせた壁材と混ぜ、噴霧乾燥(液体を熱風中で霧状にして粉末にする方法)で粉末化しました。

報告された主な結果

細胞実験では、両菌由来のポストバイオティクスがMDA-MB-231細胞の生存率を低下させたと報告されています。試した濃度の間には統計的に有意な差は見られませんでしたが、培地のみの対照群と処理群との間には有意な差(p<0.0001)が認められました。なお著者らは、B. mojavensisと乳がんを扱った先行報告は存在しないと述べています。

マウスの実験では、大腸の長さに対照群との有意な差はありませんでした。論文は、大腸の短縮が実験的な腸炎モデルで炎症や組織損傷の典型的な指標とされることを踏まえ、長さが保たれていたことは炎症がなかったことを示唆すると述べています。組織の詳しい観察では、小腸で抗菌に関わるリゾチーム1を発現する細胞の数は各群で同程度でした。一方、腸の粘液層をつくるムチン2の発現は、B. mojavensis投与群で対照群より有意に増加しており、著者らは腸のバリア機能が強まった可能性を示唆すると述べています。また、小腸の絨毛と陰窩(腸壁のひだと、その根元のくぼんだ構造)は両菌の投与群で有意に長くなり、大腸の伸長はアグアミエル群とB. mojavensis群で認められました。

粉末化の検討では、壁材の違いが粉末の性質を大きく左右しました。水分含量は3.55〜6.38%、水分活性は0.11〜0.17の範囲でした。マルトデキストリンとフルクタンの組み合わせは、吸湿性が最も低く(B. mojavensisで10.73%、L. plantarumで9.74%)、水に濡れるまでの時間も最短(それぞれ約41.72秒、40.04秒)で、粒子は球形でそろっており、平均約17.64マイクロメートルの均一な粒度分布を示しました。収率はこの組み合わせで最も高く、B. mojavensisで98.38%、L. plantarumで96.33%でしたが、処理間の全体的な差は有意ではなく、乾燥中の固形分の損失が少ないことを示しています。溶解性はいずれの処理でも83%以上と高く、ガムアラビックとB. mojavensisの組み合わせで90.70%に達しました。一方、乳清タンパク質を用いた粉末は粒子の表面に割れや崩れが見られ、濡れにくさや流動性の悪さと対応していたと報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、アグアミエルという地域に根ざした自然の基質を使って、生きた菌に頼らない機能性素材をつくる道筋を、細胞・動物での初期的な生物学的検証と、粉末化という加工技術の両面から一つの研究にまとめました。

報告された結果は、腸の組織に炎症を思わせる変化を起こさずに腸の構造に変化がみられたこと、そして壁材の選択次第で扱いやすい粉末が得られることを示しています。生物学的な働きの評価と、実際に食品や機能性素材の形にするための工程とを並べて検討したこの研究は、発酵由来の素材を考えるうえでの一つの具体的な足がかりを示すものといえます。

著者:Adelfo García-Ceja(Ingeniería en Industrias Alimentarias, TecNM-Instituto Tecnológico Superior de Venustiano Carranza, Av. Tecnológico S/N, Ciudad Lázaro Cárdenas, Puebla 73049, Mexico)、Karen Tatiana Zuluaga-López(Vicerrectoría de Docencia, Facultad de Biotecnología, Universidad Popular Autónoma del Estado de Puebla, 21 Sur No. 1103, Barrio Santiago, Puebla 72410, Mexico)、Rosa Isela Ortiz‐Basurto(Laboratorio Integral de Investigación en Alimentos, TecNM-Instituto Tecnológico de Tepic, Tepic 63175, Mexico)、Daniel Tapia‐Maruri(Centro de Desarrollo de Productos Bióticos, Instituto Politécnico Nacional, Yautepec 62739, Mexico)、María de Lourdes Meza-Jiménez(Vicerrectoría de Ciencias de la Salud, Facultad de Nutrición, Universidad Popular Autónoma del Estado de Puebla, 21 Sur No. 1103, Puebla 72410, Mexico)、Gabriel Abraham Cardoso‐Ugarte(Vicerrectoría de Docencia, Escuela de Gastronomía, Universidad Popular Autónoma del Estado de Puebla, 21 Sur No. 1103, Puebla 72410, Mexico)、Maribel Jiménez‐Fernández(Centro de Investigación y Desarrollo en Alimentos, Universidad Veracruzana, Xalapa 91000, Mexico)、Porfirio Nava(Department of Physiology, Biophysics, and Neurosciences, Center for Research and Advanced Studies of the Polytechnic Institute, Mexico City 07360, Mexico)、Beatriz Pérez‐Armendáriz(Vicerrectoría de Ciencias de la Salud, Facultad de Nutrición, Universidad Popular Autónoma del Estado de Puebla, 21 Sur No. 1103, Puebla 72410, Mexico)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adelfo García-Ceja, Karen Tatiana Zuluaga-López, Rosa Isela Ortiz‐Basurto, et al. Evaluation of Postbiotics from Lactiplantibacillus plantarum and Bacillus mojavensis Fermented in Aguamiel on Their Cytotoxic Effect in Breast Cancer Cells, Their In Vivo Effects, and Processing by Spray Drying. Nutrients 2026-08-28. DOI: 10.3390/nu18172831. 原著ライセンス:CC BY.