この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Research International
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アサイー(学名 Euterpe oleracea Mart.)はブラジル北部で経済的に重要な果実です。研究チームによれば、種は果実全体の重さのおよそ80%を占めると見積もられており、その結果、日々数百トン規模の副産物が十分に活用されないまま積み上がっています。
論文は、この捨てられている種が食物繊維や生理活性成分に富む一方で、腸内細菌叢(腸内に住む細菌の集まり)を変化させる力については、これまで調べられてこなかったと述べています。そこで著者らは、試験管内(in vitro)で大腸の発酵を模した実験系を用い、アサイーの種が腸内細菌の構成と代謝をどう変えるかを調べることを目的としました。具体的には、細菌の種類と多様性の変化、発酵中に生じる代謝物と香気成分の profile、そして細菌の変化と代謝物の産生との対応関係という三点を検討しています。
どのように調べたか
まず著者らは、凍結乾燥した種の食物繊維を公定法で測定し、繊維を構成する単糖の種類も分析しました。次に、22〜35歳の健康な成人4名(男女各2名)から提供された便を混ぜ合わせて細菌の元(接種材料)を用意しました。提供者はいずれも、少なくとも3か月間プロバイオティクス・プレバイオティクス・抗生物質を使っておらず、代謝や消化器の病気の既往もないと申告しています。研究は所属大学の倫理委員会の承認を受け、提供者からは書面による同意を得たと記されています。
種はあらかじめ、口・胃・腸の各段階を模した消化のシミュレーション(INFOGESTプロトコル)にかけられました。その後、酸素をほぼ除いた容器の中で37℃・48時間の発酵を行い、三つの条件を比較しています。開始時点の便由来細菌(CT0)、種を加えずに48時間おいたもの(CT48)、そして消化処理した種を加えて48時間おいたもの(AS48)です。細菌の構成は16S rRNA遺伝子という細菌を見分けるための目印の配列を読み取る方法で調べ、短鎖脂肪酸(繊維の発酵で生じる酸)、代謝物、揮発性成分はガスクロマトグラフィーと質量分析を組み合わせて測定しました。得られたデータは主成分分析やPLS-DAといった多変量解析、およびSpearmanの順位相関で統合的に解析されています。
報告された主な結果
種の総食物繊維量は乾燥重量100gあたり71.80gと高く、そのほとんどが水に溶けない不溶性画分(70.40g/100g)でした。可溶性・不溶性いずれの画分でもマンノースが最も多い単糖で、不溶性画分では83.9%を占めました。著者らはこの結果を、種の主要な構造多糖がマンナンであることの裏づけとしています。
48時間の発酵後、種を加えなかったCT48では多様性の指標がいずれも有意に低下しましたが、種を加えたAS48では低下が和らぎ、Simpson指数はCT48より有意に高く、開始時点のCT0とは有意差がありませんでした。細菌の顔ぶれでは、AS48においてAkkermansiaやPhascolarctobacteriumといった有益とされる属の相対量がCT48より高く、一方でEscherichia-Shigellaの相対量は低くなっていました。
短鎖脂肪酸の総量はCT48(約30 mmol/L)のほうがAS48(約21 mmol/L)より多かったものの、著者らはその内訳の違いに注目しています。AS48ではプロピオン酸が有意に多く、酢酸とプロピオン酸の比がより均衡し、その比はCT0と有意差がありませんでした。代謝物では、神経伝達物質としても知られるGABAがAS48ではCT48ほど減らず、ピペコリン酸やペンタデカン酸はAS48でのみ検出されました。揮発性成分では、フェノールからインドールへという向きの変化がみられ、硫黄を含む化合物(ジメチルスルフィドなど)はAS48だけで検出されています。
多変量解析でもAS48は一貫したまとまりを示し、CT0ともCT48とも分かれました。代謝物41種と細菌7属に絞り込んだPLS-DAモデルは統計的に妥当な分離を示し、相関解析ではPhascolarctobacteriumがプロピオン酸およびインドールと、AkkermansiaがAS48に特有のペンタデカン酸・ピペコリン酸と結びついていました。なお、これらは相関関係であり、因果を示したものではありません。
この研究が示すこと
著者らは、今回の試験管内の条件下において、捨てられているアサイーの種がプレバイオティクスとしての可能性を示し、腸内細菌の代謝に働きかけて特徴的な産物をもたらしたと結論づけています。これは人体での効果を確かめたものではなく、大腸を模した実験系で得られた知見です。
それでもこの報告は、廃棄物として扱われてきた大量の副産物が、付加価値のある機能性素材として見直しうることを具体的なデータで示した点に意味があります。
著者:Joanderson Gama Santos(Department of Food Engineering, Federal University of Paraíba, João Pessoa, Brazil)、Lucélia Cabral(Department of Applied Geology and Basin Studies Laboratory, São Paulo State University, Rio Claro, SP, Brazil)、Layane Rosa da Silva(Department of Food Engineering , Federal University of Paraíba , João Pessoa , Brazil)、Taliana Kênia Alencar Bezerra(Department of Food Engineering, Federal University of Paraíba, João Pessoa, Brazil)、Luiz Eduardo Lobo e Silva、Amanda Pereira da Silva(Department of Biochemistry and Molecular Biology , Federal University of Paraná , Curitiba , PR , Brazil)、Lucimara M.C. Cordeiro(Department of Biochemistry and Molecular Biology, Federal University of Paraná, Curitiba, PR, Brazil)、Marcos dos Santos Lima、Roger Wagner(Department of Food Science and Technology, Federal University of Santa Maria, Santa Maria, Brazil)、Tatiana Colombo Pimentel(Federal Institute of Paraná, Campus Paranavaí, Paraná, Brazil)、Marciane Magnani(Department of Food Engineering, Federal University of Paraíba, João Pessoa, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Joanderson Gama Santos, Lucélia Cabral, Layane Rosa da Silva, et al. Euterpe oleracea Mart. (açaí) seeds show in vitro prebiotic potential: Integrative evidence from human colonic fermentation. Food Research International 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120565. 原著ライセンス:CC BY.