この研究は、アルジェリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Agrociencia Uruguay
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
チア(Salvia hispanica L.)は中米で古くから栽培されてきた一年草で、その種子から得られる油はα-リノレン酸(オメガ3系脂肪酸)を豊富に含むことで知られています。研究チームは、アルジェリアで流通している市販のチアシードのうち、メキシコ産とブラジル産の2種類を対象に、油の性質を詳しく調べました。
この研究が取り上げた課題は、産地の異なるチア油を比較した研究がこれまで少なかったという点です。著者らは、品種や栽培環境、農業のやり方の違いが油の成分に影響しうると考え、産地による違いを明らかにすることが、パンへの添加など実際の食品利用に向けた判断材料になると述べています。また、アルジェリアの気候条件下でチアを栽培・利用していく研究の基礎情報としても位置づけられています。
何をどう調べたか
研究チームはまず、分析用のチア油を溶剤(ヘキサン)を使って低温で抽出し、パンづくり用には機械で搾る方法で別途油を取りました。
油の品質については、国際規格にもとづくいくつかの指標が測定されました。酸価は油が分解して遊離脂肪酸がどれだけ生じているかを示す値、過酸化物価は酸化の初期段階の進み具合を示す値、ヨウ素価は脂肪酸にどれだけ二重結合(不飽和の度合い)があるかを示す値です。あわせて、赤外分光法(FTIR)、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、核磁気共鳴(¹H NMR)といった機器分析で、油に含まれる脂肪酸の種類と割合や分子構造を調べ、ポリフェノールやフラボノイドといった微量成分の量、抗酸化の働きを示すDPPHラジカル消去率も測定しました。
さらに、小麦粉に対して0.5%、1.0%、2.5%、5.0%、7.5%の割合でチア油を加えたパンと、油を加えない対照のパンを焼き、22〜45歳の9名からなる非訓練のパネルが、皮の色、中身の色、気泡の構造、噛みごたえ、味、全体的な好ましさを採点しました。得られた評価は主成分分析(PCA)や階層クラスター分析で整理されています。
報告された主な結果
両産地の油とも酸価は低く、ヨウ素価は高い値を示し、著者らはこれを品質が良好で不飽和度が高いことの表れと説明しています。ヨウ素価はブラジル産が188.21、メキシコ産が188.29(g I₂/100 g)とほぼ同じで、全体としての不飽和度は産地が違っても同程度だったと報告されています。
一方で、個々の脂肪酸の内訳には違いが見られました。GC-MS分析では、α-リノレン酸の割合がメキシコ産で68.1%、ブラジル産で54.4%と報告され、メキシコ産のほうがオメガ3系脂肪酸に富んでいました。逆にブラジル産は飽和脂肪酸の割合が比較的高く、DPPHラジカル消去率もブラジル産48.43%、メキシコ産45.11%とブラジル産のほうが高い値でした。著者らは、この点がブラジル産の酸化に対する安定性につながりうると述べる一方、DPPHの値は油の状態や抽出方法、測定条件にも左右されるため慎重に解釈すべきであり、特定の成分と抗酸化作用の直接的な結びつきを示すにはさらなる分析が必要だとしています。
官能評価では、メキシコ産チア油を5%加えたパンが最も高い受容度(9点満点で7.02)を得ました。主成分分析からは、特に5%と7.5%という添加量が、皮の色、亜麻に似た風味、気泡の多さ、しっとり感、硬さ、噛みごたえなどの特徴と正の関係にあることが示されています。
この研究が示すこと
著者らは、メキシコ産とブラジル産のいずれのチア油もパンの栄養強化に使える素材であり、どちらもパンの品質と食べ手の受け入れやすさを高めたと結論づけています。ただし両者の性格は異なり、栄養面ではα-リノレン酸の多いメキシコ産が、加工や保存での安定性という技術面ではブラジル産が有利になりうると整理されました。
つまり、同じチア油でも産地によって中身は一様ではなく、何を重視して使うかによって選び方が変わってくる——この研究は、原材料を選ぶ際にそうした視点が必要であることを、具体的な測定値とパンの試作をもとに示したものといえます。
著者:Mourad Djeziri(Center for Scientific and Technical Research in Physico-Chemical Analysis (CRAPC), Tipaza, Algeria)、Khoukha Alileche(Center for Scientific and Technical Research in Physico-Chemical Analysis (CRAPC), Tipaza, Algeria)、Saliha Bougherara(University M’hamed Bougara of Boumerdes, Faculty of Technology, Research Laboratory in Food Technology, Boumerdes, Algeria)、Sabrinal Bougueroumi(University M’hamed Bougara of Boumerdes, Faculty of Technology, Research Laboratory in Food Technology, Boumerdes, Algeria)、Nassira Ouissal(Center for Scientific and Technical Research in Physico-Chemical Analysis (CRAPC), Tipaza, Algeria)、Mohamed Zine Messaoud-Boureghda(University M’hamed Bougara of Boumerdes, Faculty of Technology, Research Laboratory in Food Technology, Boumerdes, Algeria)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mourad Djeziri, Khoukha Alileche, Saliha Bougherara, et al. Physicochemical and Lipid Characterization of Chia Seed Oil for Improving Algerian Bread Quality and Acceptability. Agrociencia Uruguay 2026-09-07. DOI: 10.31285/agro.30.1840. 原著ライセンス:CC BY.