この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

うつ病や双極性障害などの気分障害は、再発を繰り返しやすく、生活の質を大きく損なう病気です。薬物療法や精神療法が治療の中心ですが、論文によると、患者の30〜40%程度は症状が十分に、また持続的に改善しないとされています。そのため、標準的な治療に上乗せできる、薬以外の補助的な方法への関心が高まっています。

その一つが、食事と心の健康の関係を扱う「栄養精神医学」です。研究チームは、精神科の日常診療では栄養状態や食習慣が体系的に評価されることが少ないと指摘しています。また、気分障害の患者に一人ひとりに合わせた食事指導を行い、その効果を前向きに検証した臨床研究も不足していると述べています。そこで本研究では、気分障害のある女性を対象に、個別の食事相談と食習慣の見直しが実施可能で安全かを確かめました。あわせて、うつ・不安・躁の症状の程度、体格指数(BMI)、食習慣との関連を予備的に調べました。

どのように調べたか

研究はポーランドの大学病院の精神科外来で行われました。対象は18歳以上の女性で、双極性障害、反復性うつ病性障害、または気分変調症の経過中のうつ病エピソードと精神科医に診断され、病状が安定している人です。参加を打診した30人のうち3人が同意せず、2人が最終評価を受けなかったため、25人のデータが分析されました。参加者の平均年齢は約31歳です。開始時点では、栄養リスクのスクリーニング指標(NRS 2002)で約半数の48%が「栄養リスクが高い」と判定されていました。

開始時には、臨床栄養士が一人ひとりの食事状況を詳しく聞き取りました。そのうえで、栄養必要量、食べ物の好み、アレルギー、病状に合わせた食事の推奨を作成しました。続く栄養教育では、精製された砂糖やファストフード、塩味のスナックを控えることを勧めました。野菜、果物、良質なたんぱく質、オメガ3脂肪酸を含む脂質を増やすことや、食事時間を規則的にし、水分を十分にとり、気分に任せた「感情的な食べ方」を減らすことも支援しました。開始時の評価で不足がみられた人には、市販の一般的な用量でのサプリメント(オメガ3脂肪酸、ビタミンD3、マグネシウム、酪酸ナトリウムなど)も勧めました。

評価は、開始時と12週間の教育プログラム終了時の2回行いました。症状の測定には、本人が回答する不安・うつの質問票(GAD-7、HADS)に加え、精神科医が評価するうつ病の尺度(MADRS)と躁症状の尺度(YMRS)を用いました。このほか、体重・BMIと、食品群ごとの摂取頻度や食事の規則性などを尋ねる独自の食習慣質問票で変化を調べました。なお本研究には食事指導を受けない比較群はなく、同じ参加者の前後を比べるデザインです。

主な結果

12週間後、医師が評価するうつ病尺度MADRSの平均点は15.52点から13.20点に下がり、統計的に有意な低下と報告されています。悪化した参加者はいませんでした。不安とうつを合わせて測るHADSの合計点も、17.00点から14.88点へ有意に下がりました。一方、全般性不安の尺度GAD-7は8.60点から7.60点に下がったものの、統計的な有意差には届かず、改善傾向にとどまりました。躁症状の尺度YMRSは開始時から低く、終了時も低いまま安定していました。研究チームはこれを安全性の確認と位置づけ、介入によって躁状態が引き起こされた例はなかったとしています。体重とBMIは、全体では有意な変化はありませんでした。

食習慣にも変化がみられました。自分の食事を1〜10点で評価した平均点は5.52点から6.40点に上がりました。規則的に食事をとる人の割合は40%から68%に、1日にコップ6杯を超える水分をとる人は36%から56%に増えました。ストレスや気分に応じて間食をする人は68%から52%に減っています。サプリメントでは、オメガ3脂肪酸を使う人が12%から36%に増え、開始時には誰も使っていなかった酪酸ナトリウムを終了時には20%が取り入れていました。ただし著者らは、これらの行動面の変化は人数が少ないため探索的な所見であり、厳密な統計的検定を網羅的に行ったものではないと断っています。

さらに、自己評価による食事の点数が大きく上がった人ほど、MADRSの点数も大きく下がるという中程度の関連(相関係数−0.42)が報告されました。

この研究が示すこと

著者らは、個別の食事指導は気分障害のある女性にとって実施可能な取り組みであり、うつや不安の症状の軽減と関連する可能性を示す予備的な結果が得られたとまとめています。同時に、限界もはっきり述べています。参加者が25人の女性に限られること、比較群がないため薬物療法や精神療法、病気そのものの自然な波の影響と切り分けられないこと、食習慣が本人の自己申告に基づくことです。このため、今回の結果は食事指導が症状を改善したという因果関係を示すものではありません。症状の変化と食習慣の変化が同時にみられたという、初期段階の手がかりとして受け止めるべき成果です。精神科の診療の中で、患者の栄養状態や食習慣に目を向けることの意義を提起する研究といえます。

著者:Kamil Nikel(Students’ Scientific Club, Department of Psychiatry, Faculty of Medical Sciences in Zabrze, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)、Michał Rafał Stojko(Independent Researcher, 40-000 Katowice, Poland)、Joanna Smolarczyk(Department of Psychiatry, Faculty of Medical Sciences in Zabrze, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)、Magdalena Stojko(Independent Researcher, 40-000 Katowice, Poland)、Celina Gibner(Independent Researcher, 40-000 Katowice, Poland)、Łukasz Kunert(Department of Psychiatry, Faculty of Medical Sciences in Zabrze, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)、Magdalena Justyna Piegza(Department of Psychiatry, Faculty of Medical Sciences in Zabrze, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kamil Nikel, Michał Rafał Stojko, Joanna Smolarczyk, et al. The Impact of Personalized Dietary Interventions on Symptom Severity and Dietary Habits in Female Patients with Affective Disorders: A Pilot Study. Nutrients 2026-09-19. DOI: 10.3390/nu18183060. 原著ライセンス:CC BY.