この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutritional Psychiatry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

気分の落ち込みやストレス、疲労感といった心の負担は、生活の質を下げ社会的な費用も大きい問題として注目されています。こうした背景のもと、食事の質が脳の働きと関係するという研究が積み重なり、食事は心の健康を支えうる「変えられる要素」として関心を集めてきました。

ただし著者らは、これまでの研究には偏りがあったと指摘しています。多くの研究は食事全体のパターンだけ、あるいは特定の食品や栄養素だけを取り上げ、しかも心の指標を一つしか扱わないことが多かったのです。そのため知見がばらばらになり、まとまった根拠として使いにくい状態にありました。

そこで研究チームは、同じ参加者集団・同じ分析の枠組みの中で、食事のパターンと「抑うつ症状の重さ」「感じているストレス」「疲労」の三つを同時に調べました。三つの結果を直接比べることで、食事が心の負担全般に関わるのか、それとも特定の側面だけに関わるのかを見極めようとしたのです。あわせて、パターンを構成する個々の食品群のうちどれが強く関係するのかも検討しました。研究チームが立てた主な仮説は、質の低い食事パターンに近いほど、抑うつ症状・ストレス・疲労がいずれも強くなるだろうというものでした。

どのように調べたか

調査はポーランドのワルシャワに住む成人ボランティアを対象に、2023年7月から2025年6月にかけて行われました。デザインは横断観察研究、つまり食事を変えてもらって効果を試すのではなく、ふだんの食習慣と心の状態を同じ時期に測り、自然に存在する関連を観察する方法です。参加者の募集はSNS上の広告と、ワルシャワ市内9か所のシニア向け地域センターでのチラシ・ポスター配布を組み合わせました。オンラインだけでは集まりにくい高齢層にも届くよう工夫したもので、センターには回答を手伝う研究補助者も待機していました。最終的に分析対象となったのは479人(男性71人、女性408人)、年齢は20歳から91歳までです。研究はSWPS大学の倫理委員会の承認を受け、参加者全員から事前に同意を得ています。

食習慣は食物摂取頻度調査票(FFQ)で尋ねました。これは過去1年間について45種類の食品をどのくらいの頻度で食べたかを「まったく食べない」から「1日に数回」までの6段階で答えてもらう質問紙です。心の状態は、国際的に使われ、かつポーランド語版の妥当性が確認された3種類の尺度で測りました。疲労感を測るFAS(身体的・精神的な疲労の両方を含む10項目、10〜50点)、抑うつ症状を測るPHQ-9(9項目、0〜27点)、感じているストレスを測るPSS-10(10項目、0〜40点)で、いずれも点数が高いほど症状が強いことを意味します。

分析ではまず主成分分析を使い、45品目の回答から食事のパターンを取り出しました。主成分分析とは、多数の項目の中にある共通の傾向をいくつかの軸にまとめる統計手法です。その結果、全体のばらつきの31.1%を説明する三つのパターンが得られました。肉類や、バター・生クリームなどの動物性脂肪を多くとる傾向(「カーニボラス(肉食寄り)」パターン、12.4%)、さまざまな野菜や果物に加えて全粒穀物・カッテージチーズ・ハーブティーが目立つ傾向(「ホールサム(健全)」パターン、9.8%)、加工食品・精製穀物・加糖飲料が多い傾向(「加工食品」パターン、8.9%)の三つです。

続いて、これら三つのパターンと三つの心の指標との関係を構造方程式モデリング(SEM)で検討しました。測定の誤差を考慮しながら複数の要因の関係を同時に調べる手法で、年齢を統制変数として組み込んでいます。さらに、個々の食品がどう関わるかを重回帰分析で調べ、こちらでは性別・年齢・BMI・身体活動量を考慮しました。最後に、ホールサム・パターンへの傾きが、加工食品パターンと心の状態の関係を和らげるか(調整効果)も検証しています。

報告された主な結果

SEMの結果、三つの心の指標すべてで一貫した方向性が示されました。加工食品パターンへの傾きが強い人は、疲労(β = 0.36)、抑うつ症状(β = 0.29)、ストレス(β = 0.33)がいずれも高く、どれも統計的に明確な関連でした。βは標準化された関連の強さを表す数値で、プラスなら同じ方向に、マイナスなら逆方向に動く関係を示します。反対にホールサム・パターンは、疲労(β = -0.22)、抑うつ症状(β = -0.21)、ストレス(β = -0.13)のいずれとも低い値のほうへ結びついていました。カーニボラス・パターンは疲労とわずかに逆方向の関連(β = -0.10)を示したものの、抑うつ症状やストレスとは意味のある関連がありませんでした。年齢はいずれのモデルでも有意ではありませんでした。

個々の食品に目を向けると、加工食品パターンの中では「菓子類・デザート」が三つの指標すべてで最も一貫して心の負担の高さと結びついていました(疲労 β = 0.21、抑うつ β = 0.18、ストレス β = 0.25)。加糖の清涼飲料は、疲労(β = 0.14)と抑うつ症状(β = 0.13)に関してさらに関連が認められました。ホールサム・パターン側では、葉物野菜の摂取が多いことが疲労の低さ(β = -0.13)と抑うつ症状の軽さ(β = -0.15)に、ベリー類が疲労の低さ(β = -0.10)に、アブラナ科野菜がストレスの低さ(β = -0.15)に結びついていました。なお身体活動量が高いことも疲労の低さと関連していました。

興味深い結果として、ホールサム・パターンがストレスについて調整役をはたしていたことが報告されています。加工食品パターンとストレスの正の関連は、ホールサム・パターンへの傾きが強まるにつれて弱まり、健全な食事の傾向がとくに高い水準では統計的に意味のある関連ではなくなりました(交互作用 β = -0.71、p = 0.013)。ただしこの調整効果は抑うつ症状と疲労については認められませんでした。

著者らは、ベリー類と身体活動量の交互作用について慎重な解釈を求めています。活動量が中位未満の人ではベリー摂取の多さが抑うつ症状の軽さと結びついた一方、中位以上の人では関連が見られませんでしたが、活動量の高いグループの人数が40人と少なかったためです。

この研究が示していること

著者らは、抑うつ症状についての結果を先行研究と並べて考察し、動物性食品を食べるか避けるかという区分よりも、食事全体の質と食品の加工度のほうが心の状態との関わりで中心的ではないかと述べています。カーニボラス・パターンが抑うつ症状やストレスと関連しなかったことも、この見方と整合するものとして位置づけられています。

この研究は横断的な観察であり、食事と心の状態を同じ時期に測って関連を見たものです。したがって、どちらが原因でどちらが結果なのかを決めることはできません。著者ら自身も、関連の背後にあるしくみを明らかにするには長期的・実験的な研究が必要だとしています。

それでも、三つの心の指標を同じ集団・同じ枠組みで並べて調べたこの研究からは、一つの明確な輪郭が読み取れます。加工度の高い食事パターンは疲労・抑うつ症状・ストレスのいずれにおいても負担の高さと結びつき、植物性食品の豊かな食事パターンは負担の低さと結びついていた、という対照です。とくに菓子類・デザートの頻度が三つの領域すべてに顔を出したこと、そして葉物野菜やアブラナ科野菜、ベリー類といった具体的な食品群が浮かび上がったことは、食事と心の関係を考えるうえで注目に値する手がかりといえます。

著者:Maria Kossowska-Wywiał(Institute of Psychology, SWPS University, 03-815 Warsaw, Poland)、Aneta Brzezicka(Institute of Psychology, SWPS University, 03-815 Warsaw, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maria Kossowska-Wywiał, Aneta Brzezicka. Fatigue, Depressive Symptoms, and Stress relate to Diet Quality and Food Choices. Nutritional Psychiatry 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.nupsyc.2026.100038. 原著ライセンス:CC BY.