著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:International Journal Software Engineering and Computer Science (IJSECS)

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

手書き帳簿に頼る小さな飲食店の課題

零細・中小企業は地域経済を支えています。一方で、販売記録や会計報告をいまも手作業で行っている店は少なくありません。手作業では計算を誤りやすく、報告書の作成にも時間がかかります。研究チームは、東ジャカルタのチピナン・ブサール・スラタン地区にある飲食店「バクミ・ジョグジャ・アンド・ミーアヤム・バンカ」を対象に、ウェブ上で使う販売情報システムを設計・導入し、評価することを目的としました。

論文によると、この店は家族経営で、断続的に約10年営業しており、現在の従業員は2人です。看板メニューの麺料理2系統を一つの店舗で提供しています。注文は紙の伝票帳に書き込み、支払いは現金か、レジと連動していない固定のQRコード決済で受けていました。QRコード決済には、インドネシアの統一QRコード決済規格であるQRISが使われていました。売上は紙の販売帳に手で転記しており、デジタルの控えはありませんでした。日々の売上を月次の損益計算書などにまとめるには最大で丸1週間かかり、釣り銭計算の誤りや、どのメニューが好まれているかを把握しにくいことも課題とされています。また、大手フードデリバリーサービスには登録しておらず、宣伝や遠方からの注文も近隣の常連客に限られていました。

店主の意見を聞きながら試作を重ねて開発

著者らは、事例を詳しく記述する質的な事例研究の手法をとりました。店主への聞き取り、日々の営業の直接観察、文献調査によって、業務の流れと必要な機能を整理しています。

開発には「プロトタイプモデル」と呼ばれる進め方を採用しました。これは、まず動く試作品を作って利用者に試してもらい、その意見を反映しながら改良を繰り返す方法です。要望の聞き取り、機能の優先順位づけ、設計図の作成、試作品の構築、店主による試用と改良という段階を経ています。システムはCodeIgniter 4というウェブ開発の枠組みと、MySQL/MariaDBのデータベースで構築されました。決済にはMidtransという決済サービスを組み込み、注文ごとにQRIS決済のコードを表示できるようにしました。完成したシステムは商用のクラウドサーバー上で公開し、模擬データではなく実際の営業で使いました。

機能面では、客が自分でメニューを選んで店内飲食か持ち帰りかを指定し、注文と支払いまで進める客向けページと、店側の管理画面を備えています。管理画面では、メニューや宣伝用バナーの更新、注文状況の管理、無線のサーマルプリンターでのレシート印刷、指定期間の売上集計ができます。注文状況は「支払い待ち」から「調理中」を経て「完了」へと進む流れで追跡されます。

12項目の機能テストと7日間の実運用

機能の確認には「ブラックボックステスト」を用いました。プログラムの内部は見ずに、決められた入力に対して期待どおりの結果が出るかを確かめる方法です。ログイン、メニュー管理、売上計算、決済、注文管理、売上報告、バナー管理などにわたる7つの機能群で12の場面を試しました。論文は、すべての場面で期待どおりの結果が得られたと報告しています。評価時点で、管理画面には11カテゴリー・39品目のメニューが登録されていました。

2026年8月1日から7日までの7日間には、実際の取引が5件記録されました。このうち4件が完了、キャンセルは0件、残る1件は未処理の状態でした。システムの規則上、未処理の取引は売上に含めないため、確定した売上は4件分で22万4000ルピアでした。最もよく売れたのは「バクミ・ジョグジャ・ゴドッグ・スペシャル」で、6食、15万ルピアでした。

著者らはこの結果から、紙の帳簿による記録がデータベースに自動で記録される仕組みに置き換わったと述べています。また、最大1週間かかっていた売上のとりまとめが必要なときにすぐ出せるようになり、オンライン注文や宣伝の窓口となるウェブ上の店先もできたとしています。

結果をどう受け止めるか

著者ら自身は、この結果を初期段階の実証と位置づけています。「最大1週間」という導入前の所要時間は店主の振り返りによる証言で、正式に計測した値ではありません。7日間で5件という取引数も、通常の営業規模に比べて小さな標本です。そのため論文は、商業的な効果を示すものではなく、実際の店で運用できることを示した初期の証拠だと説明しています。このシステムは本格的な複式簿記の会計ソフトではなく、外部のフードデリバリーサービスとの連携も開発範囲外です。管理画面の累計注文数と期間内の取引数に1件の差があり、これが追跡できない初期のテスト記録によるものであることも限界として挙げられています。

それでも、この事例は、従業員2人の小さな飲食店で、注文、決済、注文状況の管理、売上集計までをつなぐ仕組みが実際の営業の中で動いた様子を具体的に伝えています。手作業に頼ってきた零細の飲食店が、業務をデジタルに移す際の一つの具体例といえます。

原著論文の著者・所属:Alya Kamila(Sekolah Tinggi Ilmu Komputer Cipta Karya Informatika)、Fatchurrachman Fatchurrachman(Sekolah Tinggi Ilmu Komputer Cipta Karya Informatika)、Mesra Betty Yel(Sekolah Tinggi Ilmu Komputer Cipta Karya Informatika)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alya Kamila, Fatchurrachman Fatchurrachman, Mesra Betty Yel. Implementation of a Web-Based Sales Information System for Culinary MSMEs: A Case Study of Bakmi Jogja and Mie Ayam Bangka. International Journal Software Engineering and Computer Science (IJSECS) 2026-11-01. DOI: 10.35870/ijsecs.v6i3.8352. 原著ライセンス:CC BY.