この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Revista Multidisciplinar do Nordeste Mineiro
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
野生動物の狩猟と利用は、世界各地で長く続いてきた営みです。しかし研究チームによれば、これまで狩猟に関する知見の多くは、アマゾンやコンゴ盆地、東南アジアの森林といった湿潤な熱帯地域から得られてきました。それに比べて、乾燥した熱帯の生態系については分かっていることが少ないといいます。
この研究が対象としたのは、ブラジル北東部ピアウイ州レジェネラサン市の市街地です。この地域は、とげのある乾燥林が広がる「カーチンガ」と、熱帯サバンナである「セラード」という二つの生態系が接する移行帯(エコトーン)に位置しています。エコトーンとは、異なる生態系が接して混ざり合う境界の地帯のことです。さらにこの市は複数の州道・連邦道が通る交通の結節点であり、近隣の州からも人が集まる伝統的な露天市場を持っています。
研究チームは、都市の住民・移動手段・通信技術・地域市場といった現代的な要素が、昔から続く狩猟の実践とどう関わり合っているのかを調べようとしました。具体的には、どのような野生の脊椎動物がどう使われているか、狩猟の社会経済的・技術的な側面はどうなっているか、そして食用や薬用としての野生動物がどのように地域で取引されているかを扱っています。
どのように調べたか
調査は、半構造化された質問票による聞き取りを軸に、自由な会話、狩猟現場への同行、そして非参加型の観察を組み合わせて行われました。対象となったのは、レジェネラサン市の狩猟者15人です。調査期間は2016年12月から2017年2月、および2018年12月から2019年5月でした。
参加者は「スノーボール・サンプリング」という方法で集められました。これは、最初に接触した人から次の協力者を紹介してもらう形で対象者を増やしていく手法です。論文は、サンプル数が比較的少ない理由として、ブラジルでは狩猟が違法であるため対象者の特定と協力依頼が難しいこと、調査期間中に環境当局による取り締まりが3回あり地元メディアで報じられたことを挙げています。倫理審査はピアウイ連邦大学の委員会から承認を得ており、個人が特定される情報は記録されていません。
聞き取りでは、年齢や学歴、収入、インターネット利用、乗り物の所有といった社会経済的な情報と、狩猟の動機・頻度・移動手段・方法・対象種などが尋ねられました。記録された動物は、その地域の動物相に詳しい生物学者が同定しています。各種の相対的な重要度は「利用価値指数(Use Value、UV)」で推定されました。これは、ある種がその用途で何回言及されたかを、参加者の総数で割った値です。参加者全員が挙げれば1.00になります。
報告された主な結果
研究チームは、32種の野生脊椎動物が狩猟されていたと報告しています。内訳は鳥類15種、哺乳類12種、爬虫類5種でした。このうち26種が食肉として、11種が動物由来の伝統薬(ゾオセラピー資源)として利用されていました。
食肉としての利用価値が最も高かったのはアルマジロ類で、ココノオビアルマジロとムツオビアルマジロがともにUV=1.00、つまり参加者全員に挙げられていました。参加者はアルマジロの肉を「非常においしい」と繰り返し述べ、しばしば鶏肉と比べていたといいます。対照的にミナミコアリクイは、肉が硬く味も劣り商品価値が低いと語られていました。薬用の利用は食用に比べて種数が少なく、利用価値も概して低く、食用中心の利用に対して副次的な位置づけだったと報告されています。薬用として最も多く挙げられたのは動物の脂で、少なくとも9種から得られていました。用途としては、筋肉痛やリウマチ、腰痛といった筋骨格系・結合組織の不調が最も多く、次いで耳の痛みが挙げられました。
狩猟は主に夜間に行われ、銃器、犬、人工照明、オートバイが使われていました。参加者の66.7%がオートバイを所有し、9人は自宅から20キロ以上離れた場所へ頻繁に出かけていたといいます。また、携帯電話が取引や配達のやりとりを助けていたと報告されました。狩猟の知識は主に家族から伝わっており、7人が父親から学んだと答えています。動機としては娯楽目的が最も多く10人が挙げましたが、少なくとも7人が野生動物の取引に関わっていたと述べ、弾薬や燃料、バイクの整備費といった狩猟にかかる費用や、他の食料の購入にあてるために販売していたと語る人もいました。
肉の価格は種によって大きく異なり、最も高かったのはアルマジロ類でした。ココノオビアルマジロは1頭あたり100〜150レアル、ムツオビアルマジロは70〜100レアルと報告されています。研究チームは、こうした価格差から、野生動物の肉が単なる生存のための資源にとどまらず、社会的に価値を認められ経済的にも差別化された食べ物として機能している可能性を示唆しています。なお参加者は、よく狩られる複数の種について、この10年の間に数が減ったと感じていることも語っていました。
この研究が示すもの
この研究が描き出したのは、野生動物の利用がもはや農村での自給自足的な営みとしてだけでは捉えられない、という姿です。都市に住む狩猟者がオートバイで遠くの猟場へ向かい、携帯電話で買い手とつながり、得た動物を地域の市場へ戻していく。家族から受け継がれた知識が残る一方で、移動手段や通信技術、市場とのつながりが狩猟のあり方を作り変えていると論文は指摘しています。
研究チームは、こうした相互につながり合った社会生態系のあり方が、保全や監視、そして地域の文化を踏まえた野生動物のガバナンスにとって重要な意味を持つとまとめています。
著者:José Augusto Aragão Silva(Secretaria Estadual de Educação (SEDUC-PI), Brasil; Prefeitura Municipal de Esperantina, Piauí, Brasil)、André Bastos da Silva(Universidade Estadual do Maranhão, Campus Coelho Neto, Maranhão, Brasil)、Francisco Afonso de Azevêdo Neiva(Polícia Militar do Estado do Piauí)、Rômulo Romeu Nóbrega Alves(Universidade Estadual da Paraíba, Brasil)、Ravena Feitosa Gonçalves(Universidade Federal do Piauí, Brasil)、Bruna Araujo Brandão(Universidade Federal do Piauí, Brasil)、Isac Santana Menezes(Universidade Federal do Piauí, Brasil)、Wedson Medeiros Silva Souto(Universidade Federal do Piauí, Brasil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):José Augusto Aragão Silva, André Bastos da Silva, Francisco Afonso de Azevêdo Neiva, et al. From Subsistence to Prestige: Contemporary Use of Wildlife in Ecotonal Landscapes with High Road Connectivity in Brazil’s Mid-North Region. Revista Multidisciplinar do Nordeste Mineiro 2026-09-11. DOI: 10.66104/dh131409. 原著ライセンス:CC BY.