近年、腸内環境を整える「プロバイオティクス(善玉菌)」と、その働きを助ける「プレバイオティクス(善玉菌のエサになる成分)」を組み合わせた「シンバイオティクス」食品への関心が高まっています。人口の増加や健康志向の広がりを背景に、基本的な栄養に加えて付加価値を持つ発酵乳製品の開発が進められているそうです。今回紹介する研究では、メキシコの伝統的な甘味樹液「アグアミエル」を煮詰めて作るシロップに着目し、これを発酵乳の機能性素材として使えるかどうかを調べています。
研究でわかったこと
研究チームは、脱脂粉乳を溶かした液(10%溶液)に、アグアミエルシロップを2%加えたものと、比較対象として一般的なプレバイオティクスであるイヌリンを2%加えたものを用意し、それぞれをプロバイオティクス菌「Lacticaseibacillus rhamnosus GG(ラクチカゼイバチルス・ラムノサスGG)」で48時間発酵させました。発酵中は、菌の生存数、pH、乳酸の生成量、たんぱく質を分解する働き(プロテアーゼ活性)、そして血圧に関わる酵素「ACE(アンジオテンシン変換酵素)」を阻害する活性(降圧作用に関連するとされる指標)を継続的に測定しています。
その結果、酸の生成量や遊離アミノ基の濃度といった代謝の指標には、アグアミエル区とイヌリン区とで大きな差は見られなかったとのことです。一方で、アグアミエルを加えた系では、分子量の小さいペプチド(たんぱく質が分解されてできる断片)がより多く生成される傾向があり、これが高い降圧関連活性と結びついていたと報告されています。具体的には、アグアミエル区は発酵36時間の時点でACE阻害率41.6%に達したのに対し、イヌリン区は発酵開始時点(0時間)で20.4%の阻害率を示したものの、36時間後には検出可能な活性が見られなくなったとされています。さらに、アグアミエルシロップを加えた系では酸性化が早く進み、最終的な菌体密度(生きている菌の量の目安)も高くなるなど、発酵の進み方そのものにも良い影響が見られたと述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、アグアミエルシロップという素材が、乳酸菌の発酵を助けたり、血圧に関連するとされるペプチドの生成を促したりする可能性を示すものであり、実験室レベルでの発酵乳を用いた検討です。ヒトが実際に摂取した場合の効果や安全性を直接示したものではなく、あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には注意が必要です。ACE阻害活性はあくまで実験室での指標であり、この結果がそのまま「血圧を下げる」といった効果を保証するものではありません。
まとめ
この研究では、アグアミエルシロップを加えた発酵乳が、一般的なプレバイオティクスであるイヌリンと比べて、乳酸菌の生育を後押しし、低分子ペプチドの生成やACE阻害活性の面で異なる傾向を示したことが報告されています。研究者らは、アグアミエルシロップがシンバイオティクス発酵乳製品の素材として有望であり、機能性食品の開発における今後の展開に関連する可能性があると述べています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アグアミエルシロップ強化乳タンパク質をLacticasebacillus rhamnosus GGで発酵させた際のプロバイオティクスの安定性と降圧ペプチド活性(eフード・2026年08月)