ヨーグルトや発酵乳製品に含まれる「乳酸菌」は、おなかの調子を整える存在として知られていますが、菌の種類や株によって性質はさまざまです。近年では、腸内環境を整えるだけでなく、血糖値やコレステロールといった糖・脂質の代謝に関わる働きを持つ株を探す研究が進められています。今回紹介する論文は、中国・新疆のラクダ乳発酵乳から新たな乳酸菌を分離し、その性質を詳しく調べたものです。
研究チームはまず、伝統的な微生物分離の手法を使って、新疆のラクダ乳発酵乳から複数の乳酸菌株を分離しました。次に、これらの株が「プロバイオティクス」として望ましい性質を持つかどうかを、人工的に再現した胃液への耐性、胆汁酸塩への耐性、菌同士がまとまる自己凝集能力、細胞への付着しやすさ(疎水性)などの指標で評価しました。この一次選抜により、pH3.0の模擬人工胃液と0.2%の胆汁酸塩に強い耐性を示す候補株が10株選ばれ、そのうち6株はin vitro(試験管内)での付着能力にも優れていることが確認されました。
さらに二次選抜では、糖の分解に関わる酵素であるα-グルコシダーゼやα-アミラーゼへの阻害率、コレステロール代謝に関わる胆汁酸塩加水分解酵素の活性やコレステロール分解率といった指標を用いて、より詳しい機能評価が行われました。その結果、最終的に「Lactobacillus acidophilus CCNH655」と名付けられた1株が選び出されました。
研究でわかったこと
このCCNH655株は、α-グルコシダーゼ阻害率が67.19%±5.38%、α-アミラーゼ阻害率が86.75%±4.34%と、試験管内での糖の分解を抑える働きが強いことが示されました。これらの酵素は食事中の糖質を分解して吸収されやすくする役割を持つため、その働きを阻害する性質は血糖値の上昇に関わる可能性がある指標として調べられています。
また、コレステロール代謝に関連する指標としては、グリシン抱合型の胆汁酸塩加水分解酵素活性が3.89±0.35 U/mL、タウリン抱合型では6.91±0.48 U/mLと測定され、コレステロール分解率は79.39%±4.76%であったと報告されています。これらは、この菌がコレステロール代謝に関わりうる性質を試験管内で示したことを意味します。
安全性の面についても検討が行われ、CCNH655株は比較的広い範囲の細菌に対する抗菌作用を持つ一方、赤血球を壊す「溶血活性」は見られず、調べられた9種類の抗生物質に対しては感受性を示した(つまり薬剤耐性を持たなかった)ことが報告されています。これらは、プロバイオティクス株としての安全性評価基準を満たす結果とされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ラクダ乳発酵乳という限られた由来から分離した菌株を対象に、試験管内での実験によって性質を評価したものです。論文の要旨からは、ヒトが摂取した場合の効果や、動物・臨床試験による検証について述べられておらず、あくまで菌株のスクリーニングと基礎的な機能評価の段階にあることがうかがえます。α-グルコシダーゼ阻害率やコレステロール分解率といった数値も、実験室内での測定結果であり、これらがそのまま体内での血糖値やコレステロール値の変化を意味するものではない点に注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回の研究では、新疆のラクダ乳発酵乳から分離された乳酸菌の中から、胃酸や胆汁への耐性、付着能力に優れ、かつ糖・コレステロール代謝に関わる酵素活性を示すLactobacillus acidophilus CCNH655株が選び出されたことが報告されました。研究チームは、この株が糖・脂質代謝の改善を目指した新しい機能性プロバイオティクス製品や発酵乳製品の開発に向けた菌株資源となりうるとしています。今後、こうした試験管内での知見が実際の食品や生体内でどのように反映されるのか、さらなる研究の進展が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Lactobacillus acidophilus CCNH655の選抜とプロバイオティクス特性評価およびその糖脂質代謝調節における潜在的役割(食品工業科技・2026年07月)