この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Future Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

味噌などの大豆発酵食品づくりでは、塩分の高い環境でも育つ乳酸菌Tetragenococcus halophilusが重要な働きをしています。研究チームは、この菌が自分の内部でつくり出すペプチド(アミノ酸がいくつかつながった短い分子)の代謝が、発酵食品の風味形成に関わっているのではないかと考えました。

そこで本研究は、この菌に由来するうま味ペプチドを見つけ出し、それが人の舌の受容体にどう認識され、細胞の中でどのような信号に変換されるのかを明らかにすることを目的としています。

何をどう調べたか

研究チームはまず、T. halophilus SNTH-4株について、遺伝子の働き方を読み取るトランスクリプトーム解析と、含まれるペプチドを網羅的に調べるペプチドーム解析を組み合わせ、うま味ペプチドの候補を44種類挙げました。

続いて、コンピューター上での絞り込み(バーチャルスクリーニング)、味を数値としてとらえる電子舌による分析、そして人による官能評価を行いました。その結果、グルタミン酸が6つつながったEEEEEE(EE-6と呼ばれる)が、もっとも強いうま味を示すペプチドとして選ばれました。

このEE-6について、うま味を感じる仕組みをさらに詳しく調べるため、分子ドッキングと分子動力学シミュレーションという計算手法で受容体との結合の様子を検討し、加えて味の信号伝達を調べるのに使われるSTC-1という細胞のモデルで、細胞の反応を測定しました。

報告された主な結果

計算による解析では、EE-6はうま味受容体の構成要素であるT1R1に対して強い結合親和性を示し、結合エネルギーの内訳では静電的な相互作用(電気的なプラスとマイナスの引き合い)が主要な役割を果たしていたと報告されています。

STC-1細胞のモデルでは、EE-6は0.5 mMの濃度において、カルシウムイオン応答の最大強度0.80を引き起こしました。細胞内のカルシウム濃度の変化は、味の信号が受け取られたことを示す指標として使われます。

さらにトランスクリプトーム解析により、EE-6による刺激でSTC-1細胞に222個の発現量が変化した遺伝子が見つかりました。これらはPI3K–Akt、カルシウム、味覚伝達経路、ホスファチジルイノシトール、MAPKといった信号伝達の経路に主に集まっていました。トランスクリプトーム解析とRT-qPCRの結果からは、Plcb4とTlr4がEE-6による細胞応答に関わる信号分子の候補である可能性が示されたと述べられています。なお論文では、これらは候補として示唆された段階のものと位置づけられています。

この研究が示す意味

発酵食品のおいしさは長く経験的に受け継がれてきましたが、この研究は、そこに関わる微生物が自らつくるペプチドが、どの受容体に結びつき、細胞の中でどんな信号の流れを動かすのかを分子のレベルで描き出そうとしたものです。

著者らは、こうした知見が微生物由来の内在性うま味ペプチドの分子メカニズムへの新たな手がかりとなり、天然のうま味素材を考えるうえでの理論的な土台になると述べています。

著者:Guoyang Pan(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Feiyu An(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Shuaiqi Ji(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Jinhui Jiang(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Jia Guo(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Dongbing Tao(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Chunyue Yan(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Jinchang Liu(Yantai Shinho Enterprise Foods Co.Ltd, Yantai 264010, P.R. China)、Rina Wu(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Junrui Wu(College of Food Science, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, P.R. China)、Ming Du(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, P.R.C)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Guoyang Pan, Feiyu An, Shuaiqi Ji, et al. Mechanism of Receptor Recognition and Cellular Signal Transduction of a Novel Tetragenococcus halophilus-Derived Endogenous Umami Peptide. Journal of Future Foods 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.jfutfo.2026.09.019. 原著ライセンス:CC BY.