アインコーン、エンマー、カムット、スペルトといった「古代小麦」は、独特の栄養価やタンパク質組成が注目され、パンやパスタなどの加工食品での利用が増えています。しかし、加工後のタンパク質の質や、小麦アレルギーに関わるIgE抗体との結合性については、これまで十分に調べられてきませんでした。今回、古代小麦と現代小麦を対象に、この2つの側面を同時に評価した研究が報告されました。
研究では、業界から入手された8種類の小麦(アインコーン、エンマー、カムット、スペルト、ラウンドグレイン小麦、小麦2Ab、普通小麦、デュラム小麦)について、それぞれ全粒粉と、そこから作られたパスタを分析対象としました。タンパク質含量はケルダール法、アミノ酸組成はUHPLC(超高速液体クロマトグラフィー)、グリアジン(小麦タンパク質の一種)含量はELISA法、そしてIgE結合性はアレルギー患者由来の血清を用いたスロットブロット法で調べられています。
研究でわかったこと
分析の結果、小麦の種類によってタンパク質含量、アミノ酸組成、グリアジンの検出量、IgE結合性のいずれにも大きな違いが見られました。総タンパク質含量はスペルトとカムットで最も高く、また一部の古代小麦、特にエンマー、カムット、アインコーンでは、いくつかの必須アミノ酸のスコアが普通小麦やデュラム小麦より良好であったとされています。ただし、いずれの小麦材料も、FAO/WHOが定める必須アミノ酸の基準パターンをすべての項目で満たすものはなく、リジンとヒスチジンが主要な制限アミノ酸として残ることが示されました。
アインコーン粉ではELISAで検出されるグリアジン含量が最も高く、これはアインコーン特有のグルテンタンパク質組成と一致するとされています。またパスタへの加工によって、すべての小麦材料でELISA検出可能なグリアジン量が減少しており、加工によってタンパク質の抽出されやすさやIgE反応が起きる部位(エピトープ)への到達しやすさが変化した可能性が示唆されています。
一方で興味深いことに、加工によってグリアジンの検出量が減っても、粉・パスタのいずれの抽出物からもIgEと反応する成分は検出され続けました。IgE結合パターンは、小麦の種類、製品の形態(粉かパスタか)、そして血清を提供した個人によって大きく異なっていたとされています。特にカムットのパスタは、複数の血清サンプルで繰り返し強いIgE結合反応を示しており、この小麦材料については加工してもIgEと反応する成分が取り除かれなかったことが示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、古代小麦の一部がアミノ酸バランスの面で望ましい特徴を持ちうることを示す一方で、そうした栄養面の特性の良さが、そのままIgE結合性の低さ、つまりアレルギーの起こりにくさを意味するわけではないと結論づけています。論文では、古代小麦や現代小麦を使った製品をより正確に評価するためには、タンパク質の質、グリアジンの検出量、IgE結合性を統合的に検討する必要があると述べられています。
本研究は8種類の小麦材料を対象にした分析的研究であり、一つの研究として得られた知見です。特定の小麦がアレルギーを引き起こす、あるいは引き起こさないと断定するものではなく、今後さらなる検証が必要とされる分野と言えるでしょう。
まとめ
古代小麦には必須アミノ酸バランスなど栄養面で注目される特徴がある一方、加工後もIgEと反応する成分が残ることが確認され、栄養特性の良さとアレルギー反応性の低さは別問題であることが今回の研究で示されました。小麦アレルギーがある方や、古代小麦を使った食品を選ぶ際には、こうした複雑さも踏まえて情報を確認することが大切だと言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:古代小麦と現代小麦におけるタンパク質品質とIgE結合性:分析的研究(フーズ・2026年07月)