インド南部タミル・ナードゥ州のニルギリ丘陵には、独自の文化と食習慣を持つ先住民族「トダ族」が暮らしています。インドでは近年、先住民族の暮らしにも生活様式や食生活の変化が広がりつつあり、それが健康や栄養状態にどのような影響を与えているのかが関心を集めています。今回紹介する研究は、こうした背景のもと、トダ族の栄養状態を調べ、世帯の社会経済状況(SES:収入や教育、生活水準などを指す指標)と栄養摂取の充足度との関連を検討したものです。
研究チームは2024年2月から2025年1月にかけて、ニルギリ丘陵に暮らす30歳以上のトダ族から無作為に選ばれた352人(男性173人、女性179人)を対象に、横断的な調査を実施しました。社会経済状況は「修正版ウダイ・パレック尺度」という評価方法で測定し、食事内容は前日1日分の食事を聞き取る「24時間思い出し法」で調べられました。統計解析には、社会経済状況と栄養素摂取量との関連を見るためにピアソンの相関分析が用いられています。
研究でわかったこと
体格指数(BMI)をWHOのアジア太平洋地域向け基準で分類したところ、低体重(24.6%)、過体重(29.6%)、肥満(14.0%)のいずれも、男性より女性で有意に高い割合を示したと報告されています。
食事内容の評価では、男女ともにエネルギー、炭水化物、食物繊維、鉄、カルシウムの摂取が不足している傾向が見られました。特にエネルギー摂取量は、推奨量(RDA)を有意に下回っており、男性で1日あたり平均1628.6±77.4kcal、女性で1622.6±63.6kcalだったとされています。
さらに、社会経済状況と栄養素摂取量との間には有意な関連が確認されました。男女ともにエネルギー、炭水化物、脂質、鉄の摂取量で関連が見られ、女性ではタンパク質摂取量とも有意な関連(r=0.192、p=0.043)が示されたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究では、トダ族の成人において低栄養と過体重・肥満が同時に存在する「二重の栄養不良(ダブルバーデン)」の状態がうかがえるとされています。研究者らは、こうした結果から、文化的背景に配慮した栄養指導や、定期的な栄養スクリーニング、政府プログラムによる食料支援を通じた食料安全保障の強化が、トダ族の健康向上にとって重要であると述べています。
ただし、これは特定の地域・時期・年齢層(30歳以上)を対象とした一つの横断研究であり、得られた関連は原因と結果を直接示すものではありません。またこの結果がトダ族以外の集団や他の地域にそのまま当てはまるとは限らない点にも留意が必要です。
まとめ
今回の研究は、インドの先住民族であるトダ族において、社会経済状況と栄養摂取の充足度に関連が見られること、そして低栄養と過体重・肥満が併存する状況にあることを示しました。生活様式や食習慣が変化しつつある集団の栄養状態を理解するうえで、示唆に富む一つの知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:タミル・ナードゥ州ニルギリ丘陵のトダ族における社会経済状況と栄養充足度の関連(ディスカバー・パブリックヘルス・2026年08月)