海藻は、環境負荷の少ないタンパク質源として注目されています。しかし海藻を食べたとき、その中のタンパク質が実際にどれだけ体内で消化・吸収されうるのかは、これまで十分に分かっていませんでした。海藻の細胞は陸上植物とは異なる複雑な細胞壁構造を持っており、これが消化酵素のタンパク質へのアクセスを妨げている可能性があるためです。今回、スペインの研究機関に所属する研究者らのチームが、複数の食用海藻を対象に、タンパク質の消化されやすさを比較する研究を発表しました。
3種類の海藻でタンパク質消化性を比較
研究チームは、緑藻のアオサ属(Ulva lacinulata)、紅藻のアマノリ属(Porphyra dioica)、褐藻のコンブ属(Saccharina latissima)という、色も分類群も異なる3種の海藻を対象としました。評価には、ヒトの消化管での消化過程(口腔・胃・小腸の各段階)を試験管内で再現する国際的な標準プロトコルであるINFOGESTを、海藻という特殊な試料に合わせて調整した手法が用いられました。さらに消化の前後で、海藻の成分組成や、分子から組織レベルにわたる構造がどう変化するかも詳しく調べられています。
種によって消化性に大きな差、保存方法も影響
結果として、タンパク質の消化性には海藻の種類によって明確な違いが見られました。最も消化性が高かったのはアマノリ属(Porphyra dioica)で45〜60%、次いでコンブ属(Saccharina latissima)が20〜35%、最も低かったのはアオサ属(Ulva lacinulata)で10〜30%という数値が報告されています。研究チームは、この差が海藻に含まれる多糖類の組成や細胞壁構造の違いによって、消化酵素がタンパク質にどれだけアクセスしやすいかが変わるためだと考察しています。また、海藻の保存・加工方法として冷凍と凍結乾燥を比較したところ、凍結乾燥は総じて消化性を低下させる傾向が見られ、乾燥処理に伴う構造変化がタンパク質へのアクセスをさらに妨げた可能性が示唆されています。加えてこの研究では、消化性の数値そのものが、比較のために用いる「タンパク質を含まない対照(ブランク)」の調製方法に大きく左右されることも分かりました。これは、海藻のような特殊な試料でin vitro消化試験を行う際には、その素材に適した対照設定が結果の信頼性を左右する重要な要素であることを示しています。
この研究をどう読むか
この研究は、あくまで実験室内で消化管の働きを模した条件下での評価であり、実際にヒトが海藻を食べた際の体内での消化・吸収を直接測定したものではありません。また対象となったのは3種の海藻に限られており、他の海藻種や、実際の食品加工・調理条件においても同様の傾向が見られるかどうかは、この研究だけでは分かりません。一つの研究として得られた知見であり、海藻タンパク質の利用可能性について結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回の研究では、緑藻・紅藻・褐藻という異なる種類の海藻の間で、タンパク質の消化されやすさに大きな違いがあること、またその違いが細胞壁構造や多糖組成、さらには保存・加工方法とも関連している可能性が示されました。研究チームは、こうした知見が海藻を代替タンパク質源として評価する際の精度向上や、消化性を高めるための加工方法の開発に役立つとしています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Laura Díaz-Piñero, Yubexi Correa, Hylenne Bojorges, et al. In vitro protein digestibility assessment in edible seaweeds: Methodological approach and species comparison. フードリサーチインターナショナル (2026). DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120458. 原著ライセンス: cc-by-nc.