著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

食品添加物と実験用物質、二つの顔を整理する

カラギーナンは紅藻から抽出される多糖類で、ゼリーやアイスクリームなどの食品で、とろみ付け、安定化、ゲル化に使われています。医薬品の添加剤や薬の運び役としても使われています。一方で、カラギーナンは動物に炎症や血栓を起こす物質としても知られています。1960年代にはラットの足をむくませる実験モデルが作られ、抗炎症薬を探す標準的な方法になりました。1970年代には、カラギーナンで血栓が生じることも報告されています。

このため、カラギーナンの安全性については研究データや結論が食い違い、議論が続いてきました。論文によると、こうした混乱の一因は、性質の異なる物質がひとまとめに語られてきたことにあります。食品用のカラギーナンは分子量が大きく、おおむね100kDa以上です。これに対し、工業的に酸で分解したポリギーナンや、部分的に分解された低分子のカラギーナンは、化学的性質、体内での代謝、毒性の現れ方が根本的に異なると指摘されています。この総説で著者らは、カラギーナンが免疫の炎症や血栓を引き起こす仕組みについての既存の研究を集め、食品として普段食べる場合の安全性に関する証拠と、特定の実験条件で得られた仕組みの知見とを区別して整理することを目指しました。

証拠を三つの段階に分けて読み解く

著者らは、論文ごとに分子量、カラギーナンの型、投与経路(口から与えたか、注射したかなど)、証拠の種類を見比べました。そのうえで、独自に考えた三段階の枠組みで証拠を分類しています。人が食事で摂取する場合の結論にはカテゴリーAの証拠を優先しました。仕組みのつながりや動物モデルの解釈にはカテゴリーBを、仕組みについての仮説や構造と働きの関係の議論にはカテゴリーCを用いています。段階の異なる証拠どうしで結論が食い違う場合は、その出どころ、実験条件、ほかの状況に当てはめる際の限界を明記しました。なお著者らは、この枠組みは自分たちが定義した概念的なもので、正式に検証された標準的な証拠評価法ではないと断っています。

報告されてきた炎症と血栓の仕組み

著者らのまとめでは、カラギーナンによる免疫の活性化は、細胞が異物を感知するセンサーの一つであるTLR4を中心に起こります。特定の実験系では、MyD88と呼ばれる分子を介する経路が炎症物質TNF-αの産生に関わっていました。一方、TRIFという分子を介してNLRP3インフラマソーム(炎症を起こす細胞内のタンパク質複合体)が働く経路は、炎症物質IL-1βの成熟と放出に関わっていました。例えば、遺伝子を欠損させたマウスの細胞を使った研究では、低分子のカラギーナンがこうした経路を通じて炎症物質を増やしたと報告されています。ただし、この研究で動物に与えた量は、人が普段食事からとる量をはるかに上回っていたことも紹介されています。

論文は、どの経路で投与するかによって生じる作用のパターンが変わると整理しています。静脈に注射した場合は、血液を固める因子や血小板が直接活性化され、すばやく血栓ができます。腹腔に注射した場合は、マクロファージという免疫細胞が炎症物質を分泌し、炎症が血管の内側の細胞を傷つけ、血液凝固へとつながる連鎖が始まります。口から与えた実験モデルでは、腸内細菌がカラギーナンを分解して低分子の断片を生じさせます。その結果、腸の細胞どうしの結合が壊れ、TLR4が活性化されて大腸炎が起きました。著者らは、これらは実験モデルに依存した結果であり、人の通常の食事で起きることが確かめられたものではないと強調しています。

動物の尾に血栓ができるモデルについても、著者らは解剖学的な背景を整理しています。マウスやラットの尾は全身の血液循環の最も末端にあり、血流が付け根から先端へ一方向に流れます。尾の中の血管系どうしをつなぐ経路は細く、血流を補う力も非常に限られています。著者らは、尾の血栓モデルはこうした齧歯類に特有の血管構造に強く依存しており、人の血栓症と同じものとは見なせないとしています。足のむくみ、尾の血栓、大腸炎といったモデルは、炎症と血栓の特徴の一部を再現します。そのため仕組みの研究や薬の効き目の検討に使われていますが、著者らはこれらを実験の道具となるモデルとして位置づけています。

「実験で起きること」と「食べて起きること」を分けて考える

著者らによれば、既存の証拠からは次のことが支持されます。腸のバリアが保たれた状態で通常の食事からとる場合、分子量の大きい食品用カラギーナンが腸の表面の細胞を大量に通り抜けることはできません。また、定められた使用条件のもとでは、規制当局の評価や動物研究で、食品用カラギーナンに顕著な炎症や血栓のリスクは見つかっていないとされています。一方、これまでに示された炎症や血栓の仕組みは、主に注射による投与、高用量、分解された断片、試験管内の実験によって得られたものです。口から与えた研究でも、用量や条件は人の典型的な食事とは異なっていました。

著者らは、まだ分かっていない点も挙げています。カラギーナンとTLR4が結合する部位は推定モデルで支えられているにとどまります。MyD88とTRIFの二つの経路は、マウスの腹腔の免疫細胞でしか確認されていません。腸内細菌による分解で人の体内にどれだけの低分子断片が生じるかについては、人で直接測ったデータがありません。この総説が示しているのは、カラギーナンをめぐる結論を考える際には、物質の分子量や種類、投与経路、実験条件を区別する必要があるということです。限られた条件で得られた仕組みの知見を、そのまま食品添加物の安全性評価に当てはめるべきではない、というのが著者らの主張です。

原著論文の著者・所属:Ma X(Department of Clinical Medicine, Shantou University Medical College, Shantou 515041, China.)、Wu D(Department of Clinical Medicine, Shantou University Medical College, Shantou 515041, China.)、Huang R(Laboratory Animal Center, Shantou University Medical College, Shantou 515041, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ma X, Wu D, Huang R. Mechanisms of Carrageenan-Induced Immune Inflammation and Thrombosis: A Narrative Review. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-19. DOI: 10.3390/foods15203727. 原著ライセンス:CC BY.