かまぼこやカニ風味かまぼこなどの練り製品の原料になる「すり身」は、通常、魚肉を水で何度も洗浄して脂質や色素、におい成分を取り除いてから作られます。しかしこの洗浄工程には大量の水を使うため、環境負荷や栄養成分の流出が課題として指摘されてきました。洗浄をしない「無洗浄すり身」はこうした水消費や養分ロスを減らせる持続可能な選択肢として注目されていますが、洗浄工程を省くと魚肉タンパク質の純度が下がり、ゲル(ぷりぷりとした弾力のある固まり)としての強度や保水性が弱くなりやすいという弱点があります。今回紹介する研究は、この弱点を海藻由来の多糖類「κ-カラギーナン」を添加することで補えるかどうかを、ナイルティラピアの無洗浄すり身を使って調べたものです。

研究を行ったのは、中国水産科学研究院淡水漁業研究センター(無錫市)、大連海洋大学、南京農業大学無錫漁業学院、江南大学食品科学技術学院に所属する研究者らのグループです。

κ-カラギーナンの量によってゲルの状態がどう変わったか

研究チームは、ナイルティラピアの無洗浄すり身にκ-カラギーナンを異なる濃度で加え、加熱によってゲル化させたときの物性や構造を比較しました。その結果、κ-カラギーナンの添加量に応じてゲルの性質が変化することが確認されました。とくに0.75%の濃度で加えた場合、ゲル強度は無添加のもの(対照区)と比べて2.2倍にあたる47.0 g・cmに達し、保水力(WHC)は97.9%、加熱調理による重量の目減り(蒸煮損失)は4.0%まで低下したと報告されています。一方、添加量をさらに増やして1.0%にすると、ゲル強度や硬さはより高まったものの、保水力はわずかに低下したとされ、単純に「多いほど良い」わけではない濃度依存的な関係が示されています。

水分と分子レベルでは何が起きていたのか

低磁場核磁気共鳴(LF-NMR)という手法を用いて水分子の状態を調べたところ、κ-カラギーナンの添加によって、動きの自由な「自由水」がゲル網目構造に閉じ込められた「不易水」へと変化していく様子が捉えられました。具体的には、不易水に対応する信号(T22)の相対的な割合が、無添加時の85.9%から0.75%添加時には88.9%まで増加したと報告されています。また、タンパク質の溶解性を調べた結果からは、疎水性相互作用とジスルフィド結合(タンパク質分子同士を橋渡しする結合)がゲル網目を安定させるうえで主要な役割を果たしていると考えられました。さらに赤外分光(FTIR)による解析では、水素結合の指標であるO-H吸収帯の変化がκ-カラギーナンの添加とともに強まり、タンパク質の二次構造を見る「アミドI」の解析からは、0.75%添加時にβシート構造が最も多くなり、α-ヘリックス構造が減少する、つまり加熱時にタンパク質がより秩序立てて再配列している様子がうかがえたとされています。走査型電子顕微鏡(SEM)による微細構造の定量解析でも、0.75%添加のゲルが最も緻密な網目構造を持ち、孔の平均面積や隙間の割合(多孔度)が最小になっていたことが確認されました。

この研究をどう受け止めるか

これらの結果から、研究チームはκ-カラギーナンを適切な濃度で加えることが、無洗浄ティラピアすり身のゲル特性を分子間相互作用の強化と水分分布の最適化を通じて改善する現実的な手段になりうると位置づけています。ただし、この研究は特定の魚種と特定の添加物の組み合わせで行われた実験結果であり、他の魚種や加工条件でも同様の効果が得られるかどうかは今回の要旨からは分かりません。また、風味や食品としての総合的な受容性、長期保存時の変化などについては、この研究の範囲外である点にも留意が必要です。一つの研究結果として、今後さらなる検証が積み重ねられていく段階にあると理解するのが妥当でしょう。

まとめ

この研究では、水の使用量を抑えられる無洗浄すり身の弱点であるゲル強度や保水性の低さを、海藻由来のκ-カラギーナンの添加によって補えるかどうかが検討され、0.75%という濃度でゲル強度・保水力・水分保持のバランスが最も良くなったことが報告されています。持続可能な水産加工の技術開発に向けた基礎データの一つとして位置づけられる内容です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wanwen Chen, Xinyu Chang, 杨兰仙, et al. Effects of κ-Carrageenan on Gel Properties and Microstructure of Unrinsed Nile Tilapia Surimi Gels During Heat-Induced Gelation. ゲルズ (2026). DOI: 10.3390/gels12080681. 原著ライセンス: cc-by.