著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Theory and practice of meat processing

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の背景と目的

タイ東北部では、オオコウベネズミ(Bandicota indica)がかつては農作物を荒らす害獣として捕獲されていました。近年は食用のたんぱく源として養殖されるようになっています。マハーサーラカーム県周辺では、生肉、焼いたもの、加工品として地元の市場や道端の露店で売られています。一方で、養殖されたこのネズミの肉がどれほど安全かについては、データがほとんどありませんでした。

研究チームが注目したのはサルモネラ菌です。サルモネラ菌は世界で最も多い食中毒の原因の一つで、ネズミなどのげっ歯類はこうした病原体を保有することが知られています。本研究は予備的な調査として位置づけられ、二つの目的が掲げられました。一つは、養殖ネズミにおけるサルモネラ菌の汚染率と、抗菌薬(抗生物質)が効きにくくなる「薬剤耐性」の傾向について基礎データを得ることです。もう一つは、小さなネズミの体に適した検査用の試料採取方法がまだ確立されていないため、二つの採取方法を比べることでした。

何をどう調べたか

調査は2024年2月から9月に、マハーサーラカーム県の商業的なネズミ養殖場6か所で行われました。各養殖場から成体のネズミを10匹ずつ(雄5匹、雌5匹)選び、合計60匹を調べました。試料には、養殖業者が通常の販売用に処理した後の個体を使っています。

1匹ごとに二つの方法で試料を採りました。一つは体全体を液体で洗い、その洗浄液を調べる「全身洗浄法」です。もう一つは筋肉組織を液体の中ですりつぶして調べる「食肉洗浄法」です。前者は皮膚や足、体腔など体の表面全体の菌を、後者は肉の内部の菌を捉える方法です。同じ個体で両方を行うことで、検出率を直接比べられるようにしました。

さらに、分離したサルモネラ菌42株について、7種類の抗菌薬が効くかどうかを調べました。抗菌薬をしみ込ませた円盤を菌の上に置き、菌の増殖が抑えられる範囲から判定する標準的な方法を使っています。

主な結果

サルモネラ菌は調査した6か所すべての養殖場で見つかりました。個体ごとに見ると、全身洗浄法では60匹中42匹(70%)、食肉洗浄法では60匹中35匹(58.3%)から検出されました。養殖場による差は大きく、全身洗浄法での陽性率は30%から100%まで幅がありました。

二つの方法を比べると、全身洗浄法のほうが検出率は高めでした。ただし、この差は統計的に意味のある差とはいえませんでした。著者らは、全身洗浄法は体の表面に付いた菌をより多く回収できる可能性があり、処理施設での監視に向くかもしれないと述べています。一方で、消費者が実際に口にする肉の状態をより正確に表すのは食肉洗浄法だとも指摘しています。

薬剤耐性の検査では、テトラサイクリンが効かない株が52.38%(42株中22株)と最も多く見られました。次いでアンピシリン19.05%、セファゾリン14.29%、ストレプトマイシン7.14%、シプロフロキサシン4.76%、ナリジクス酸2.38%の順でした。スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤に耐性を示す株はありませんでした。3系統以上の抗菌薬に耐性を持つ「多剤耐性」株は、42株中1株でした。

著者らは、耐性の傾向に家畜への抗菌薬使用が影響している可能性に触れています。ただし、今回の調査では養殖場での抗菌薬の使用状況を集めていないため、耐性の原因については結論を出せないとしています。また、薬剤耐性を調べたのはサルモネラ菌が見つかった個体の一部から得た株に限られます。検査も菌の有無を調べるもので、菌の量は測っていません。

研究が示すこと

この研究は、新たに広がりつつある食用ネズミの養殖について、サルモネラ汚染と薬剤耐性の基礎データを示したものです。調べた養殖場すべてで汚染が確認され、一部の抗菌薬が効きにくい菌もいました。著者らはこれを公衆衛生上の懸念としてとらえています。そして、養殖や処理、調理の段階での衛生管理や、抗菌薬の適切な使用が必要だと結論づけています。調査は限られた地域の6か所での予備的なものですが、ネズミ肉の食品安全を考えるうえでの出発点となる報告です。

原著論文の著者・所属:S. Autkeaw(Faculty of Veterinary Sciences, Mahasarakham University)、S. Rujirapisit(Faculty of Veterinary Sciences, Mahasarakham University)、S. Moolprahas(Faculty of Veterinary Sciences, Mahasarakham University)、M. Yossapol(Faculty of Veterinary Sciences, Mahasarakham University)、P. Pongthaisong(Faculty of Veterinary Sciences, Mahasarakham University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):S. Autkeaw, S. Rujirapisit, S. Moolprahas, et al. Salmonella contamination and antimicrobial resistance in farmed Bandicota indica. Theory and practice of meat processing 2026-10-11. DOI: 10.21323/2414-438x-2026-11-3-238-246. 原著ライセンス:CC BY.