魚肉を丸めた「フィッシュボール(魚肉団子)」は、バングラデシュをはじめアジア各地で古くから親しまれてきた惣菜・スナックだ。原料となるパンガシウス(Pangasianodon hypophthalmus)は成長が早く、タンパク質や不飽和脂肪酸を含む食材として知られる一方、脂質を多く含む食品全般と同じく、冷蔵保存中でも脂質の酸化(酸化的な劣化)が進みやすいという弱点を抱える。冷蔵は微生物の増殖を遅らせはするが、酸化反応そのものは止められないため、風味や色、栄養価の低下につながる。こうした劣化を防ぐため、食品業界ではBHT(ブチルヒドロキシトルエン)やアスコルビン酸(ビタミンC、AA)といった合成抗酸化剤が使われてきたが、過剰摂取時の毒性や発がん性への懸念も指摘されており、植物由来の天然抗酸化剤への関心が高まっている。

今回紹介する研究は、バングラデシュのJashore科学技術大学の研究者らが、モンキージャックフルーツ(Artocarpus lacucha、クワ科の植物で、インドネシア北スマトラ原産とされる近縁種の記載もある樹種)の果肉から作った抽出物(MJPE)を、生のパンガシウス魚肉団子の保存にどう応用できるかを調べたものである。

どのように調べたのか

研究チームはまず、完熟したモンキージャックフルーツから皮と種を除いた果肉を55度で15時間乾燥させ、粉末にした。この粉末を85%エタノールでソックスレー抽出(溶媒を還流させながら繰り返し成分を溶かし出す方法)し、20時間かけて抽出した後、ろ過・濃縮・乾燥してMJPEを得ている。

魚肉団子は、パンガシウスの魚肉90%に氷水・コーンスターチ・食塩を加えた配合をベースに、抗酸化剤を加えない対照区(T0)、BHTを0.02%添加した区(T1)、アスコルビン酸を0.05%添加した区(T2)、MJPEを0.1%添加した区(T3)、MJPEを0.3%添加した区(T4)の5種類を用意した。20gずつ丸めて真空包装し、4度の冷蔵下で10日間保存、1日目・5日目・10日目にpH、加熱調理による重量減少(クッキングロス)、色(明度・赤み・黄み・彩度・色相)、ヘム鉄含量、DPPHラジカル消去活性(抗酸化力の指標)、TBARS値(脂質酸化の指標)、生菌数(総生菌数)を測定した。

MJPE添加でどんな変化がみられたか

すべての処理区で、保存日数が進むにつれてpHの上昇、クッキングロスの増加、色の劣化、ヘム鉄の減少、DPPH活性の低下、TBARS値と生菌数の上昇という品質低下の傾向がみられた。ただし、その進み方には処理区間で明確な差があった。

もっとも品質が保たれたのは、MJPEを0.3%添加したT4だった。10日間の保存でpHの上昇が最も抑えられ、クッキングロスも最小(1日目2.05%、10日目でも4.28%)にとどまった。色についても、明度・赤み(a*値)・彩度が他の区より高く保たれ、色相角の変化(変色の指標)も小さかった。ヘム鉄含量の減少も他の区より緩やかだった。

抗酸化力を示すDPPHラジカル消去活性は、T4で72.44%(1日目)から65.79%(10日目)の範囲を保ったのに対し、対照区(T0)は56.57%から33.39%まで大きく落ち込んだ。脂質酸化の指標であるTBARS値は、T4が0.31〜0.41mg MDA/kg(MDAはマロンジアルデヒドという酸化生成物)ともっとも低く、対照区は0.49〜0.67mg MDA/kgともっとも高かった。生菌数についても、MJPE添加区は対照区や合成抗酸化剤添加区と比べて0.80〜1.68 log10 CFU/mL低く抑えられ、細菌の増殖を有意に遅らせたと報告されている。

興味深いのは、MJPEがBHTやアスコルビン酸といった既存の合成抗酸化剤よりも、抗酸化作用・抗菌作用のいずれにおいても統計的に優れた結果を示した点である。研究チームは、MJPEに含まれるフェノール性化合物やフラボノイドが、フリーラジカルを中和したり、酸化を促す金属イオンを捕捉したりする働きを持つ可能性を指摘している。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

著者らは、MJPEを魚介類の脂質酸化や微生物増殖を抑える天然保存料として使った研究はこれまでほとんど例がなく、本研究がその効果を包括的に評価したものだと位置づけている。一方で、今回測定した生菌数(総生菌数)はあくまで微生物汚染全体の目安であり、食中毒の原因となる特定の病原菌や腐敗菌を個別に調べたものではないと著者ら自身が限界として述べている。また、ヘム鉄の含量が保たれたことは酸化の抑制を示す結果であって、鉄分としての栄養価や体内での利用のされやすさについて結論づけられるものではないとも注記されている。研究チームは今後、MJPEに含まれるどの化合物が具体的にこれらの効果をもたらしているのかを明らかにするため、詳細な成分分析が必要だとしている。この研究は冷蔵保存された生の魚肉団子という特定の条件下での実験結果であり、天然保存料としての実用化に向けては、さらなる検証が必要な一つの研究段階にあるといえる。

まとめ

モンキージャックフルーツの果肉から得た抽出物MJPEは、パンガシウス魚肉団子の冷蔵保存において、pHの上昇抑制、クッキングロスの低減、色の保持、抗酸化力の維持、脂質酸化と細菌増殖の抑制という複数の面で、無添加の対照区だけでなく合成抗酸化剤(BHT・アスコルビン酸)よりも良好な結果を示したと報告されている。研究チームは、MJPEが魚介加工品における合成保存料の代替候補となりうると述べているが、これは特定の実験条件下で得られた知見であり、健康効果や実用上の安全性を断定するものではない。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Md. Golam Rabby, Md. Nayim Hossain, Maymuna Islam Keya, et al. Functional application of monkey jack (Artocarpus lacucha) pulp extract as a natural preservative: Effects on quality, safety, and storage stability of raw pangasius fish balls. プロス・ワン (2026). DOI: 10.1371/journal.pone.0357592. 原著ライセンス: cc-by.