この研究は、タイ、ラオスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Aquaculture nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ローゼル(Hibiscus sabdariffa L.)は、萼(がく)の部分が鮮やかな赤色をしていることで知られる植物で、ハーブティーなどに利用されることがあります。この赤色のもととなる色素成分が、観賞魚の体色や健康にどのような影響を与えるのかを調べた研究が報告されました。今回紹介するのは、観賞用のコイ(錦鯉に近い品種と考えられるファンシーコイ)を対象に、ローゼルの萼から抽出した成分を飼料に混ぜて与えた実験です。観賞魚の飼育では成長の良さだけでなく、体色の鮮やかさも重要な価値とされており、こうした天然由来の成分が飼料添加物として使えるかどうかは、水産・観賞魚業界にとって関心の高いテーマです。

研究でわかったこと

研究チームは、マイクロカプセル化されたローゼル萼抽出物(MREと表記)を、飼料中に0%、1%、2%、3%、4%の割合で混ぜ、平均体重約27gのコイに60日間与えました。500リットルの水槽に30匹ずつ、各条件3反復で飼育し、成長度合いや血液の状態、免疫・抗酸化に関わる指標、体色、そして内臓組織の様子を比較しています。

その結果、MREを2%、3%、4%含む飼料を与えたグループは、0%・1%のグループに比べて最終体重や増体量、成長速度が有意に高く、餌の利用効率を示す指標(少ない餌でどれだけ成長したか)も、3%・4%区で最も良好だったと報告されています。統計的な解析からは、成長速度が最大になると予測される添加量はおよそ3.76%であり、実際の観察結果ともおおむね一致していたとのことです。なお、生存率(90〜100%)や肝臓・内臓の重さの指標には、添加量による有意な差は見られませんでした。

血液に関する検査では、3%・4%区で赤血球数やヘモグロビン量、血中タンパク質、免疫グロブリン(免疫に関わるタンパク質)の値が有意に増加したとされています。また、生体防御に関わるリゾチームという酵素の活性や、体内の酸化ストレスを抑える酵素(SODやGPx)の活性も、MREの添加によって高まり、特に3%・4%区で最も高い値を示したと報告されています。

体色については、赤みを表す指標(a*値)がMRE3%・4%区で有意に上昇した一方、明るさ(L*値)や黄色みを表す指標(b*値)には変化が見られなかったとのことです。皮膚やヒレ、筋肉に含まれるカロテノイドやアントシアニン(色素成分)の量も、添加量が増えるほど高くなる傾向が確認されています。組織を観察したところ、3%区では腸の絨毛(栄養吸収に関わる部分)の高さが改善していた一方、4%区では肝臓に「硝子様変性」と呼ばれる変化がより強く見られたと述べられています。

これらの結果を踏まえ、研究チームは、成長や餌の効率、免疫・抗酸化反応、体色の改善、腸の発達といった面から見て、肝臓への悪影響を伴わずに済む添加量として3%が最適だったと結論づけています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

今回の研究は、観賞用コイという特定の魚種を対象に、60日間という限られた期間で行われた一つの実験です。ここで示された結果が、他の魚種や、より長い飼育期間、あるいは異なる飼育環境でも同じように当てはまるかどうかは、この要旨だけからは分かりません。また、4%という高めの添加量では肝臓によりはっきりした変化が見られたと報告されており、量が多ければ多いほど良いというわけではなさそうだという点も留意しておきたいポイントです。この研究はあくまで一つの実験結果であり、結論が確定したものではない、という前提で読んでいただければと思います。

まとめ

この研究では、観賞用コイの飼料にローゼル萼抽出物を3%程度加えることで、成長や免疫・抗酸化に関わる反応、体色の赤み、腸の状態などが改善する可能性が示されたとされています。一方で、添加量が4%になると肝臓への影響がより目立ったとも報告されており、適切な添加量の見極めが重要であることがうかがえます。天然由来の色素成分が観賞魚の飼育にどう活用できるか、今後の研究の広がりが注目されるテーマといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):食餌性マイクロカプセル化ローゼル(Hibiscus sabdariffa L.)萼抽出物が観賞用コイ(Cyprinus carpio L.)の成長、色揚げ、生理応答を向上させる(アクアカルチャー・ニュートリション・2026年06月)

著者:Kattakdad S(Department of Fisheries, Faculty of Agriculture and Technology, Rajamangala University of Technology Isan, Surin, Thailand, rmuti.ac.th.)、Phungam N(Department of Agro-Industrial, Faculty of Agriculture and Technology, Rajamangala University of Technology Isan, Surin, Thailand, rmuti.ac.th.)、Udduang S(Department of Fisheries, Faculty of Agriculture and Technology, Rajamangala University of Technology Isan, Surin, Thailand, rmuti.ac.th.)、Thammaboud S(Department of Livestock and Fisheries, Ministry of Agriculture and Environment, Vientiane, Lao PDR.)