著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
尋常性ざ瘡、いわゆるにきびは、世界で非常に多い病気です。論文によると、12〜24歳の85%が経験するとされます。思春期は自己像や人間関係が形づくられる時期です。そのため、この年代のにきびは見た目だけの問題にとどまらないと著者らは指摘しています。
にきびは、ホルモン、遺伝、免疫、環境などが重なって起こる病気です。食事が主な原因である可能性は低いものの、体質的になりやすい人では症状を悪化させうると考えられています。これまでの研究では、血糖値を上げやすい食事や乳製品が皮脂を増やす仕組みが議論されてきました。こうした食事はインスリンと「IGF-1」というホルモンを増やし、細胞の成長や脂質合成の司令塔である「mTORC1」を活性化させると考えられています。
研究チームはこの考え方を、「超加工食品」という食事の枠組みに広げました。超加工食品は、食品を加工の程度で4群に分ける「NOVA分類」で定義されるもので、元の食材の形がほとんど残らない工業的な製品を指します。甘い飲料、袋菓子、ファストフード、調理済み食品などが代表例です。この総説の目的は、超加工食品が子どもや思春期の若者のにきびの成り立ちにどう影響しうるかについて、既存の知見を整理することです。著者らは、思春期のホルモン変化、若者の食行動、腸と皮膚の関係(腸–皮膚軸)をあわせて検討した点を、この総説の特色として挙げています。
どのように調べたか
この論文は、新しい実験や調査を行ったものではありません。既存の研究をまとめた「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。著者らは、医学文献データベースのPubMed、MEDLINE、EMBASEを用いて、2025年6月までに発表された英語論文を検索しました。検索語には、にきび、超加工食品、mTOR、西洋型食事、皮脂腺、IGF-1、にきびの原因菌、皮膚の微生物叢などを組み合わせて使っています。
文献は、臨床試験、観察研究、メタ解析、仕組みを調べた基礎研究などから、テーマとの関連性に基づいて選ばれました。子どもを対象とした研究が優先されましたが、超加工食品と子どものにきびを直接調べた研究は少ないため、背景として成人の研究も含めています。また、決められた手順で網羅的に選別する系統的レビューではないことも、論文の中で明記されています。
整理された主な内容
まず皮膚の側について、著者らは、にきびの原因菌とされるキューティバクテリウム・アクネス(C. acnes)の役割を紹介しています。この菌は、ふだんは皮膚を守る働きも持つ常在菌です。にきびで問題になるのは、菌の量が増えることよりも、菌の系統の多様性が失われ、炎症を起こしやすい系統が優勢になることだとされます。引用された研究では、「IA1」という系統が健康な皮膚では約42%だったのに対し、にきびの病変では86〜92%を占めていました。この菌を免疫が認識するとさまざまな炎症物質が放出され、毛穴の詰まりと炎症が続く悪循環が生まれると説明されています。
次に、食事によって皮脂が増える経路が整理されています。血糖値を急に上げる食事でインスリンが増えると、IGF-1の働きを抑えるたんぱく質が減り、自由に働けるIGF-1が増えます。すると、皮脂をつくる細胞の中で一連の信号が伝わり、mTORC1が過剰に活性化します。あわせて、皮脂合成を抑えるブレーキ役の「FoxO1」も働きにくくなります。著者らによると、こうして皮脂の量が増えるだけでなく、炎症を起こしやすい脂肪酸が増えるなど、皮脂の成分も変わります。ただし著者らは、この仕組みの一部は主に糖尿病患者の研究から得られたもので、健康な子どもにそのまま当てはまるとは限らないとも断っています。
超加工食品については、いくつかの経路が挙げられています。一つ目は、食品の構造が壊れているため吸収が速く、血糖値とインスリンが急上昇しやすいことです。二つ目は、多く含まれる乳たんぱく質由来のアミノ酸、特にロイシンが、インスリンやIGF-1を介さずにmTORC1を活性化しうることです。三つ目は腸への影響です。論文によると、食品に使われる乳化剤(ポリソルベート80やカルボキシメチルセルロース)は、腸の粘液層を薄くし、細胞どうしのすき間をふさぐ構造(タイトジャンクション)を変化させて、腸の粘膜を傷めます。著者らは、その結果として細菌由来の炎症物質(LPS)が血中に入りやすくなり、皮膚の炎症に寄与する可能性があると論じています。食物繊維が少ないことや人工甘味料も、腸内細菌のバランスを崩す要因として挙げられています。著者らは、こうした変化が皮膚の微生物叢にも間接的に影響しうると論じています。一方で、腸内細菌の代謝物がIGF-1の産生に関わるという知見は動物研究に基づくもので、子どもでは直接確かめられていないと明記しています。
人での証拠としては、次のような研究が紹介されています。パプアニューギニアとパラグアイの15〜25歳の住民では、にきびが一例も見られなかったという観察研究があります。15〜25歳を対象に、血糖値を上げにくい食事を12週間続けた無作為化臨床試験では、にきびの数が減り、インスリンの効きも改善しました。経口プロバイオティクスがにきびを改善したとするメタ解析も挙げられています。一方で、84人を対象とした別の無作為化試験では、血糖値を上げにくい食事を治療に組み合わせても、にきびの数に有意な差は見られませんでした。米国皮膚科学会の2024年の指針でも、証拠は相反しているとされています。
子ども・若者に特有の事情と、この総説が示すこと
著者らは、思春期にはIGF-1と男性ホルモンが増え、生理的なインスリン抵抗性も高まると指摘しています。さらに、未熟な皮脂腺細胞は、IGF-1を受け取る受容体を多く持つとされます。つまり思春期の皮膚は、食事の影響がなくても、もともとこの経路が働きやすい状態にあるということです。そこに、超加工食品の多い食事が重なります。2009〜2014年の米国の調査では、子どもの摂取エネルギーの67%が超加工食品由来でした。英国の研究では、学校給食のカロリーの70〜73%が超加工食品由来だったと報告されています。
一方で、著者らは現時点の証拠の限界も強調しています。主な限界は次のとおりです。食事の記録が参加者の記憶に頼っていること。体重減少、年齢・性別、生活習慣全体の影響を切り分けにくいこと。試験期間が短いこと。超加工食品の定義が統一されていないこと。そして、子どもを対象とした研究や、人で仕組みを確かめる研究が不足していることです。著者らは、提案された経路は生物学的にもっともらしいものの、子どもでの確認はまだこれからだとしています。
結論として、この総説は、超加工食品の摂取と子ども・若者のにきびとの間に関連がある可能性を示すものであり、因果関係を確定したものではありません。著者らは、食事への配慮が標準的な治療を補う手段になりうると述べています。ただし、食事を厳しく制限すると摂食障害のリスクを高めかねないため、極端な除去ではなく、バランスがよく続けやすい食習慣を家族とともに考えることが大切だとしています。
原著論文の著者・所属:Yasmeen Magharehabed(School of Medicine, Louisiana State University Health Sciences Center, New Orleans, LA 70112, USA)、Zainab Ibrahim(Heersink School of Medicine, University of Alabama at Birmingham, 1670 University Blvd, Birmingham, AL 35294, USA)、Hesham Shiekhtholth(Heersink School of Medicine, University of Alabama at Birmingham, 1670 University Blvd, Birmingham, AL 35294, USA)、Nabiha Yusuf(Department of Dermatology, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, AL 35294, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yasmeen Magharehabed, Zainab Ibrahim, Hesham Shiekhtholth, et al. Ultra-Processed Diets and Pediatric Acne: Insulin–mTOR Activation and Its Potential Role in Cutaneous Inflammation. International Journal of Molecular Sciences 2026-08-08. DOI: 10.3390/ijms27167123. 原著ライセンス:CC BY.