この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Psychology Health & Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
多発性硬化症(MS)は中枢神経の病気で、疲労感や抑うつ症状がよくみられ、日常の活動や生活全体の質に大きな負担をもたらします。著者らは、食事のパターンなどの生活習慣がこうした症状の重さに関わっている可能性が指摘されてきた一方で、これまでの研究の結果は一致していないと述べています。
そこで研究チームは、MSのある成人における疲労と抑うつ症状の状況を調べ、それらが地中海食の順守度、および個々の食品・食事要素とどう関連するかを検討することを目的としました。地中海食とは、野菜・果物・豆類・オリーブオイルなどを中心とし、赤身肉や甘い飲料を控える食事パターンを指します。
何を、どのように調べたか
この研究は横断研究、つまりある一時点での状態をまとめて測る設計です。ギリシャの成人MS患者112人(平均年齢45.26±9.9歳)が対象となりました。
地中海食の順守度は MEDAS(Mediterranean Diet Adherence Screener)という質問票で評価され、疲労の重さは FSS(Fatigue Severity Scale)、抑うつ症状は CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)という、いずれも広く使われる尺度で測られました。解析には、分布の形を前提としないノンパラメトリック検定、スピアマンの順位相関、複数の要因を同時に考慮する多変量線形回帰が用いられています。
報告された主な結果
論文によると、臨床的に意味のある疲労(FSS 4以上)が参加者の92.0%にみられ、抑うつ症状のリスクが高い状態(CES-D 16以上)にあたる人は89.9%でした。また、地中海食の順守度が低い人は51.8%で、全体として食事の順守は十分とはいえない水準だったと報告されています。
疲労の重さは地中海食の順守度によって異なり、順守度が低いほど疲労が重いという関連が認められました(p = 0.035)。一方、抑うつ症状は食事の順守度とは関連しませんでしたが、疲労の重さとは強く相関し(ρ = 0.600、p < 0.001)、多変量解析でも疲労の重さと独立して関連し続けました。同じ解析では、女性であることは疲労の軽さと関連していました。さらに、赤身肉、果汁飲料、オリーブオイルといった個別の食事要素と症状の重さとの間にも関連がみられたと述べられています。
なお、この研究は一時点の観察にもとづく横断研究であり、著者らは食事と症状の「関連」を報告しています。どちらが原因でどちらが結果かを示すものではありません。
この報告が示すこと
著者らは、対象となったMSのある人々では疲労と抑うつ症状の負担が大きく、地中海食の順守度は全般に最適とはいえなかったとまとめています。順守度の低さは疲労の重さと関連し、疲労と抑うつ症状は互いに強く結びついていました。
こうした結果から著者らは、MSのある人のケアにおいて、心身の状態全体と食事の両方に目を向けることの重要性が浮かび上がると述べています。
著者:Emmanuel Psylinakis(Hellenic Mediterranean University)、Aikaterini Kafesaki(Hellenic Mediterranean University)、Christina Kasapidou(Hellenic Mediterranean University)、Vasileia Kounelaki(Hellenic Mediterranean University)、Nikolaos Thalassinos(Hellenic Mediterranean University)、Anastasia G. Markaki(Hellenic Mediterranean University)、Aspasia Spyridaki(Hellenic Mediterranean University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Emmanuel Psylinakis, Aikaterini Kafesaki, Christina Kasapidou, et al. Fatigue, depressive symptoms, and Mediterranean diet adherence among Greek adults with multiple sclerosis. Psychology Health & Medicine 2026-09-27. DOI: 10.1080/13548506.2026.2736866. 原著ライセンス:CC BY.