著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Brain and Behavior

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

抑うつ症状は、世界の中高年に多く見られる心の不調です。気分の落ち込みに加えて、体の慢性疾患を伴うこともあり、生活の質を大きく下げます。そのため、対策につながる要因を見つけることが課題となっています。

体重と身長から計算する体格指数(BMI)は、栄養や健康の状態を示す身近な指標です。これまでにもBMIと抑うつ症状の関係は調べられてきましたが、結果は研究によってばらばらでした。体重が多いほど症状が少ないとする報告もあれば、逆の報告や、関係が見られないという報告もありました。また多くの研究は、抑うつ症状を一時点でしか測っておらず、症状がその後どう推移するかは追えていませんでした。

そこで研究チームは、中国の中高年を対象とした全国規模の追跡調査データを使い、調査開始時のBMIと、その後の抑うつ症状の経過パターンとの関係を調べました。

何をどのように調べたか

使われたのは、中国の中高年を全国から選んで追跡している調査「CHARLS」のデータです。2011年から2020年までの5回の調査を利用しました。分析の対象は、45歳以上で、調査開始時のBMIがあり、抑うつ症状を少なくとも3回測定できた1万521人です。平均年齢は約58歳で、女性が約52%でした。

BMIは調査開始時に実測した身長と体重から計算しました。中国の成人向け基準により、「やせ(18.5未満)」「普通体重(18.5〜23.9)」「過体重(24.0〜27.9)」「肥満(28.0以上)」の4群に分けました。抑うつ症状は、過去1週間の気分を尋ねる10問の質問票で測りました。点数は0〜30点で、高いほど症状が重いことを示します。

研究チームはまず、繰り返し測った点数をもとに、症状の推移が似ている人どうしをグループに分ける統計手法を用いました。そのうえで、BMIの区分によって、どのグループに属しやすいかが異なるかを比べました。比較の際には、年齢、性別、学歴、婚姻状況、居住地、喫煙・飲酒、身体活動、自己評価による健康状態、炎症の指標、各種の慢性疾患などの影響を差し引いています。男女別の分析や、条件を変えて結果が揺らがないかを確かめる追加分析も行いました。

主な結果

抑うつ症状の経過は二つのグループに分かれました。症状が低いまま安定していた「低症状安定群」が約52%、症状が高いまま続いていた「高症状持続群」が約48%です。論文によると、二つの群の違いは主に症状の重さにありました。約9年の追跡期間中、どちらの群も症状の水準はほぼ横ばいでした。途中で悪化したり改善したりする経過がはっきり分かれたわけではありません。

普通体重の人と比べると、やせの人は高症状持続群に属するオッズ(なりやすさを表す指標)が約1.29倍でした。この差は統計的に意味のあるものでした。一方、過体重や肥満の人では、普通体重の人との間に統計的に意味のある差は見られませんでした。

男女別に分けると、男性ではやせと高症状持続群との関連が統計的に意味のある水準で見られました(オッズ約1.32倍)。女性では統計的に意味のある関連は確認されませんでした(オッズ約1.23倍)。ただし著者らは、男女の推定値はおおむね近く、誤差の幅も重なっていると述べています。記憶に関わる病気のある人を除いた分析や、欠けているデータがある人を除いた分析でも、主な結果は同じ傾向でした。

この研究が示すこと

この研究は、中国の中高年では、やせていることが抑うつ症状の高い状態が長く続くことと関連していると報告しました。体重が多いことではなく、少ないことに注意を向ける結果です。著者らは、やせへの対策が中高年の心の健康を保つ取り組みの一部になりうると考えています。

一方で、この研究は観察研究で、示されたのは関連であり、原因と結果の関係ではありません。著者らは、食事量が減って抑うつが生じたのか、抑うつのせいで食欲が落ちたのかは分からないと述べています。調べていない要因の影響も完全には排除できません。結果がほかの年代や文化圏にも当てはまるかは慎重に考える必要があるとしています。

原著論文の著者・所属:Dehua Zhao(Department of Clinical Pharmacy The Third Hospital of Mianyang (Sichuan Mental Health Center) Mianyang China)、Xiaoqing Long(Department of Clinical Pharmacy The Third Hospital of Mianyang (Sichuan Mental Health Center) Mianyang China)、Hongying Fan(Department of Clinical Pharmacy The Third Hospital of Mianyang (Sichuan Mental Health Center) Mianyang China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dehua Zhao, Xiaoqing Long, Hongying Fan. Association Between Body Mass Index and Depressive Symptom Trajectories Among Chinese Middle and Old Aged Adults: A Cohort Analysis Based on the CHARLS. Brain and Behavior 2026-09-01. DOI: 10.1002/brb3.71744. 原著ライセンス:CC BY.