著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、中国です。

掲載誌:Al-Ahkam

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

イスラム教の教えに従って口にしてよいものを「ハラール」と呼びます。ムスリムが多数派の国では、食品がハラールかどうかを国が規制や認証の仕組みで保証することがあります。一方、ムスリムが少数派の社会では、こうした公的な仕組みがないことも少なくありません。

研究チームが注目したのは香港です。香港は世俗的で自由放任型の市場を持ち、ハラールに特化した規制がありません。著者らは、この環境でハラールがどのように管理され、少数派のムスリムがどのようにハラールの食生活を守っているのかを、社会と経済の両面から調べました。

何を調べたか

研究は質的な手法をとり、統計的な検証ではなく、現場の声や観察から考察を組み立てています。資料としたのは、消費者やコミュニティ団体へのインタビューと、飲食店や食堂などでの現地観察です。消費者については、ソーシャルワーカー、公務員、移住労働者、長く住む住民を含む12人のムスリムに詳しく話を聞きました。

分析の土台にした考え方の一つが「信用財」です。信用財とは、買った後でも品質を自分で確かめにくい商品のことです。ハラール食品は見た目では本当にハラールかどうか分からないため、売り手と買い手の情報の差がとても大きくなります。著者らはさらに、国に頼らず地域の人々が自分たちでルールを作り守っていく仕組みについての理論も参考にしました。

主な結果

まず論文は、香港の「規制の空白」は法律がまったくない状態ではないと報告しています。政府は宗教上の基準づくりには関わりませんが、商取引上の詐欺を取り締まる権限は持っています。空白は、あくまで宗教的な基準の統一の部分に限られるということです。

市場任せの結果、輸入品を中心とする香港の店頭には、さまざまな国のハラールのロゴが統一されないまま並ぶことになりました。著者らはこれを、制度がばらばらに分かれた状態だと表現しています。どのロゴを信じればよいか分かりにくく、確認にかかる時間や手間、頭を使う負担が、少数派のムスリムの消費者自身に押しつけられていると論文は指摘しています。

消費者の対応は大きく二通りに分かれました。一つは、店頭のハラール表示や「ムスリム向け」の食堂といった目に見える手がかりを頼りにする「経験則に基づく信頼」です。もう一つは、包装を確認し、バーコードを読み取ってハラールのリストに載っているかを照合するといった、自分で積極的に確かめる「能動的な監査」です。ただし著者らは、どちらの方法でもハラールかどうかを完全に正しく判断できるわけではないと強調しています。その理由として、消費者ごとの知識の差、流通経路の情報が平等に手に入らないこと、非公式な確認手段の信頼性の問題を挙げています。また、聞き取りの人数が限られているため、結果を統計的に広く一般化できない点も著者ら自身が認めています。

公的な規制の空白を埋めていたのは、ITICFHKのようなコミュニティ団体でした。こうした団体は、地域の信頼と道徳的な権威を基盤にした非公式の管理によって、ハラール認証を行っています。著者らは、日本、オーストラリア、アメリカの認証団体が輸出や国際貿易と深く結びついているのに対し、香港のITICFHKは地元の少数派の日々の宗教生活を守ることを動機にしている点が異なると報告しています。一方で、こうした団体には法的な強制力や公的な制裁、消費者の被害を救済する仕組みがないという限界も示されました。

研究が示すこと

著者らは、地域社会に根ざしたハラールの管理は、人々からの信頼という社会的な正当性によって少数派の宗教的な暮らしを支えられるものの、公的な法律が持つ強制力の代わりにはなれないと結論づけています。国の規制がない市場で、信仰に基づく食生活を守る負担が誰にかかり、地域社会がそれをどこまで支えられるのか。この研究は、その具体的な姿と限界を香港の事例から描き出しています。

原著論文の著者・所属:AM. Muh. Khafidz Ma'shum(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid Pekalongan)、Sam'ani Sam'ani(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid Pekalongan)、Makrum Kholil(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid Pekalongan)、Taufiqur Rohman(Universitas Islam Negeri K.H. Abdurrahman Wahid Pekalongan)、Abdul Rahim Albert Hsiu(ARA Halal Certification Centre, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):AM. Muh. Khafidz Ma'shum, Sam'ani Sam'ani, Makrum Kholil, Taufiqur Rohman, Abdul Rahim Albert Hsiu Navigating Halal Practices for Muslim Consumers in the Absence of State Regulation in Hong Kong. Al-Ahkam 2026-10-20. DOI: 10.21580/ahkam.2026.36.2.29713. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。