紅茶の中には、花や果物を思わせる独特の香りを持つものがあります。中国茶の一種「九曲紅梅(きゅうきょくこうばい)」もそのひとつで、梅の花のような香り(梅花香)が特徴とされています。しかし、この香りの強さや質は原料や製造工程によってばらつきがあり、なぜ良い香りの茶とそうでない茶が生まれるのか、その化学的・微生物学的な理由はこれまではっきりしていませんでした。
そこで今回紹介する研究では、九曲紅梅茶を等級(品質のグレード)ごとに集め、茶に含まれる香り成分などの化学物質を網羅的に調べる「メタボロミクス」と、茶の発酵に関わる微生物の種類や構成を調べる「マイクロバイオーム解析」を組み合わせて、両者の関係性を統合的に評価しました。
研究でわかったこと
解析の結果、等級の高い茶ほど、特定の有益な微生物が豊富に存在し、それと同時に香りの決め手となる重要な化合物も多く含まれていることが示されました。これらが組み合わさることで、花のようでありながら果物のような香りも感じられる「花果香」のプロファイルが相乗的に形成されていると報告されています。
一方で、等級の低い茶では微生物の構成バランスが乱れる「ディスバイオシス」と呼ばれる状態がみられ、さらに「テアブラウニン」という成分が増えていることが確認されました。これは官能評価(人が実際に香りや味を評価すること)における品質の低下と関連していると報告されています。
さらに、微生物と香り成分のデータを組み合わせた相関ネットワーク分析によって、微生物が特定の代謝経路を調節している可能性が示されました。特に、リナロール、ゲラニオール、メチルサリチレートという3つの香気成分の生合成に対して、特定の有益な微生物群が相乗的に働きかけている様子が明らかになったと報告されています。これにより、これまで経験則に頼っていた梅花香の形成メカニズムを、微生物と代謝物の関係という観点から解き明かすことにつながったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、九曲紅梅茶という特定のお茶を対象に、等級による違いを化学分析と微生物解析の両面から調べたものです。今回の結果は、茶の香りの成り立ちを理解するための手がかりを示すものであり、特定の香り成分や微生物が健康に良い・悪いといった効果を検証したものではない点に注意が必要です。また、一つの研究であり、これがすべての九曲紅梅茶や他の発酵茶に当てはまるかどうかは、今後のさらなる研究によって確かめられていく段階にあると考えられます。
まとめ
今回の研究では、九曲紅梅茶の梅花香が、特定の有益な微生物と香気成分との相乗的な関係によって生まれている可能性が、メタボロミクスとマイクロバイオーム解析を組み合わせることで示されました。研究チームは、この手法が九曲紅梅茶の品質管理を精密に行うための手がかりとなるほか、発酵食品全般の風味形成の仕組みを解き明かす新たなアプローチにもなり得るとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:メタボロミクスとマイクロバイオーム解析の統合による高級九曲紅梅茶の梅花香気の特徴解明(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)