著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Carbohydrate Polymers
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
サトウキビから砂糖を作る工程では、搾汁した液を煮詰めて結晶化させますが、この過程で微生物が増殖し、糖液がねばつくトラブルが起きることがあります。米国農務省(USDA)農業研究局とジョージア大学の複合糖質研究センターの研究チームは、サトウキビ工場から分離されたロイコノストック属(Leuconostoc)の細菌が作り出す多糖類に着目し、その構造と加工への影響を調べました。
何を調べたのか
研究チームは、工場由来のロイコノストック分離株が産生する細胞外多糖(EPS)を対象に、菌の培養液の粘度への影響を調べるとともに、これらの菌株がどのようなEPSを作るのかを詳しく分析しました。とくに L. suionicum LASM7 と L. lactis LASM16 という2つの分離株は、EPSの産生量が多く、培養液の粘度が高くなることが確認されました。産生された多糖は、赤外分光法(FTIR)と核磁気共鳴(NMR)による解析の結果、いずれもデキストランに分類されるものでした。
研究でわかったこと
糖の結合様式を調べる解析では、これらのデキストランはα-1,6結合のグルコピラノース(Glc p)を骨格とし、側鎖の結合様式に菌株ごとの違いがあることがわかりました。L. suionicum LASM5 と L. suionicum LASM6 の試料には4位で結合したグルコピラノース残基(4-Glc p)が見られた一方、LASM7 と LASM16 ではこの構造はごくわずかでした。NMR解析からは、LASM5とLASM6のデキストラン骨格には4-Glc pが二糖鎖として存在すること、さらに→6)-β-Glc p-(1→という結合を持つ微量の多糖成分も確認されました。対照的に、LASM7とLASM16では6位で結合したグルコピラノース残基の割合が高いことが示されました。
さらに各菌株のゲノムを調べたところ、複数のグルカンスクラーゼ(多糖合成に関わる酵素)の遺伝子が見つかりました。LASM5、LASM6、LASM7は、α-1,6デキストランスクラーゼ活性を持つと予測されるGtf1624相同遺伝子、α-1,2分岐デキストランスクラーゼ活性を持つと予測されるBsrA、そしてα-1,6デキストランスクラーゼ活性とα-1,2分岐活性を併せ持つと予測されるDsrE相同遺伝子をコードしていました。一方でLASM16は、α-1,6デキストランスクラーゼ活性を持つと予測される酵素を単独でコードするのみで、これはLASM16のデキストランがより直鎖状の構造を持つという分析結果と一致するものでした。
この研究の位置づけと注意点
研究チームは、こうした構造の違いがサトウキビ加工における糖液のろ過やショ糖の結晶化といった工程、また機能性食品添加物などのバイオ製品開発に実務上の意味を持ちうると位置づけています。ただし本研究は特定の工場から分離された菌株を対象とした基礎的な解析であり、粘度への影響や産業応用の可能性を実証したものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
まとめ
この研究は、サトウキビ加工の現場に存在するロイコノストック属細菌が、菌株ごとに異なる構造のデキストランを作り出すことを、化学分析とゲノム解析の両面から明らかにしたものです。同じデキストランでも結合様式や酵素構成が異なることで、糖液の粘度への影響が変わりうることが示唆されています。今後、こうした知見が製糖工程の管理や新たな多糖類の用途開発にどうつながるか、さらなる研究が注目されます。
原著論文の著者・所属:Gillian O. Bruni(USDA, Agricultural Research Service, Southern Regional Research Center, New Orleans, LA, 70124, USA)、Evan Terrell(USDA, Agricultural Research Service, Southern Regional Research Center, New Orleans, LA, 70124, USA)、Yunci Qi(USDA, Agricultural Research Service, National Center for Agricultural Utilization Research, Peoria, IL, 61604, USA)、Ambrish Kumar(Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA, 30602-4712, USA)、Lei Huang(Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA, 30602-4712, USA)、Prithvi Pal Singh(Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA, 30602-4712, USA)、Christian Heiß(Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA, 30602-4712, USA)、Parastoo Azadi(Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA, 30602-4712, USA)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Gillian O. Bruni, Evan Terrell, Yunci Qi, et al. Dextrans produced by Leuconostoc isolates from sugarcane factories: Potential impact on viscosity during sugarcane processing. カーボハイドレート・ポリマーズ (2026). DOI: 10.1016/j.carbpol.2026.125823. 原著ライセンス: cc-by.