養殖魚のエサ(配合飼料)は、粉末原料を粒状(ペレット)に固めて作られます。運搬や取り扱いの際にペレットが崩れたり、水の中でふやけて崩壊したりしないよう、飼料には『バインダー』と呼ばれるつなぎ成分がよく加えられます。今回紹介する研究は、このバインダーが単にペレットの丈夫さを保つだけでなく、魚の糞の性質にも影響するのではないかという視点から行われたものです。養殖現場では、糞などの固形廃棄物をいかに効率よく取り除くかが水質管理上重要な課題であり、その特性を左右する要因を探ることには実用的な意味があるとされています。
研究でわかったこと
研究チームはまず、大西洋サケ用に2種類の対照飼料を用意しました。ひとつは魚粉を60%含む『魚粉ベース飼料(FM)』、もうひとつは魚粉を15%に抑え植物性原料を主体とした『植物性飼料(PM)』です。さらにPM飼料をベースに、グアーガム、キサンタンガム、リグニンスルホン酸塩、ジャガイモデンプン、エンドウデンプン、アルギン酸塩、ゼラチンという7種類のバインダーを、それぞれ2%または5%の割合で加えた飼料を14種類作成しました。
これらの飼料を、大西洋サケのポストスモルト(海水馴致後の若い個体)に与える予備試験を2回実施しました。試験1ではPM対照飼料と2%バインダー入り飼料を、試験2ではFM対照飼料と5%バインダー入り飼料を比較しています。その結果、試験1では2%グアーガム入り飼料を与えた群からしか糞を十分に採取できなかった一方、試験2ではすべての群から糞を採取できたと報告されています。
この結果を踏まえ、FM対照、PM対照、そして2%のグアーガム・キサンタンガム・アルギン酸塩を加えた飼料を選び、最終試験(試験3)を実施しました。ここでは、グアーガムを与えたサケから有意に多くの糞が回収され、続いてFM対照、アルギン酸塩、キサンタンガム、PM対照の順に多かったとされています。また、グアーガムは栄養素の消化率を有意に低下させ、キサンタンガムとともに腸内の粘度を上げ、対照飼料と比べて糞の乾物含量を下げたことも示されました(乾物含量はPMよりFMのほうが高い傾向)。さらに、FM対照飼料を与えた魚の糞は、PMベースの飼料由来の糞に比べて炭水化物が少なく灰分が多く、こうした組成の違いが糞の安定性に関わっている可能性があるとされ、今後さらに検討すべき点として挙げられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで大西洋サケを対象とした飼育試験に基づくものであり、特定のバインダーが優れている・劣っているといった単純な結論を示すものではありません。糞の回収量が多いことや消化率・腸粘度への影響は、飼料設計や廃棄物管理における考慮点として報告されているものであり、ヒトの健康効果などとは無関係です。また、糞の組成差が安定性に与える影響については『さらに検討が必要』とされており、今回の結果だけで因果関係が確定したわけではない点に留意が必要です。一つの研究の知見であり、今後の追加研究によって理解が深まっていく分野だと考えられます。
まとめ
この研究では、大西洋サケの飼料に加えるバインダーの種類や量が、ペレットの物理的な強さだけでなく、糞の量・消化率・腸内粘度・糞の乾物含量といった特性にも関わりうることが示されました。特にグアーガムやキサンタンガムでは、糞の回収量が増える一方で消化率の低下や腸粘度の上昇といった変化も見られたとされ、飼料設計と養殖環境管理の両面から興味深い知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:大西洋サケ(Salmo salar)の飼料および糞便品質を改善する飼料バインダー(ピアジェイ・2026年06月)