この研究は、ノルウェー、オーストラリア、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Fish & Shellfish Immunology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
養殖される大西洋サケ(Salmo salar)の飼料には、赤い色素であるアスタキサンチンが加えられます。この色素には化学的に合成されたものと、微細藻類ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)に由来する天然のものがあります。研究チームは、同じ色素でも供給源が違えば魚の体への影響が変わるのかどうかを調べました。
注目したのは、外界と接する「粘膜器官」の組織の状態です。具体的には、腸の後半部分(遠位中腸)、皮膚、えらの組織構造、赤血球の形、肝臓と体腎(トランクキドニー)の健康状態、そして粘液の主成分であるムチンをつくる遺伝子(muc2、muc5ac1、muc5ac2、muc5b)と、細菌などに対抗する抗菌ペプチドの遺伝子(def1、def2、def3、cath1)の働き具合です。粘膜は魚が病原体と最初に接する防御の最前線にあたるため、その状態は健康の指標として扱われます。
どのように調べたか
研究チームは、アスタキサンチンの供給源だけを変えた3種類の試験飼料を用意しました。合成アスタキサンチンを用いたものを対照飼料(CO)とし、これに加えて、藻類の細胞壁を破砕した全細胞をそのまま乳化した飼料(AW)と、藻類から抽出したアスタキサンチンを用いた飼料(AE)の2つです。AWとAEはいずれもヘマトコッカス・プルビアリス由来です。
各飼料区に6つの繰り返し区を設け、給餌試験は105日間続けられました。その後、各区から取り出した一部の魚に14日間の負荷試験を行い、ストレスへの耐性を評価しています。組織の評価には、粘膜の状態を数値として捉える「粘膜マッピング」や組織形態計測、体腎については半定量的な採点が用いられました。
報告された主な結果
著者らによると、遠位中腸・皮膚・えらの組織構造は、給餌期間と負荷試験期間の双方において、CO区とAW区で影響がみられました。粘膜マッピングでは、これらの区で組織に占める粘液関連構造の割合(容積密度)、粘液細胞の面積、粘膜バリアの健全性が増加したと報告されています。赤血球の異常が現れる頻度は、AE区と比べてCO区とAW区で低くなっていました。
一方、AE飼料では肝細胞の空胞の面積割合と平均的な大きさが有意に大きく、肝組織中の中性脂肪滴の割合も高く、粒も大きいという結果でした。体腎の構造異常も、CO区・AW区よりAE区で重い傾向が報告されています。
遺伝子の働きについては、粘膜免疫に関わるムチン遺伝子と抗菌ペプチド遺伝子の発現が、AE区と比べてCO区とAW区で高まっていました。とくに遠位中腸のmuc2、muc5b、def3と、皮膚のmuc2では、CO区の発現がAE区より有意に高かったとされています。
この報告が示すこと
著者らは全体として、合成アスタキサンチンと、細胞壁を破砕した藻類全細胞を乳化したアスタキサンチン(それぞれ57.0 mg/kg、43.0 mg/kgの添加)が、粘膜マッピングと組織形態に影響を与え、それが構造と生理の両面の変化を通じて、大西洋サケの粘膜免疫状態を支え健康を高めることにつながると考えられる、と述べています。
同じアスタキサンチンであっても、どの供給源から、どのような形で与えるかによって魚の組織や遺伝子の反応が異なりうる――この試験が示しているのは、そうした「素材の形」の重要性です。なお本紹介は公開された抄録に記載された範囲に基づいており、詳細な条件や追加の測定値については原著の記述に委ねられます。
著者:SM Majharul Islam(Faculty of Biosciences and Aquaculture, Nord University, Bodø, 8026, Norway)、Mette Sørensen(Faculty of Biosciences and Aquaculture, Nord University, Bodø, 8026, Norway)、Gabriel Ossenkamp(FjordAlg AS, Verksvegen 5, Øvre Årdal, 6884, Norway)、Muhammad A.B. Siddik(School of Life and Environmental Sciences, Deakin University, Geelong, VIC, 3216, Australia)、Monica F. Brinchmann(Faculty of Biosciences and Aquaculture, Nord University, Bodø, 8026, Norway)、Jørgen Lerfall(NTNU-Norwegian University of Science and Technology, Department of Biotechnology and Food Science, Trondheim, NO-7491, Norway)、Viviane Verlhac(Faculty of Biosciences and Aquaculture, Nord University, Bodø, 8026, Norway)、Florence Perera Willora(Skretting AS, Sjøhagen 6, Stavanger, 4016, Norway)、Kim D. Thompson(Aquaculture Research Group, Moredun Research Institute, Edinburgh, UK)、Ioannis N. Vatsos(Faculty of Biosciences and Aquaculture, Nord University, Bodø, 8026, Norway. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):SM Majharul Islam, Mette Sørensen, Gabriel Ossenkamp, et al. Source-dependent effects of dietary astaxanthins on health and mucosal immunity in Atlantic salmon (Salmo salar). Fish & Shellfish Immunology 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.fsi.2026.111700. 原著ライセンス:CC BY.