タマネギの皮は、調理の際に捨てられることが多い部位ですが、実は抗酸化作用を持つ成分を含む「農業廃棄物」として近年注目されています。今回紹介する研究では、イエメンの在来品種「Ba Fatim(バ・ファティム)」という赤タマネギの外皮を対象に、そこに含まれる抗酸化成分をどのような方法で効率よく取り出せるかが調べられました。
研究チームは、超音波を使う抽出法(UAE:ultrasonic-assisted extraction)と、超臨界状態の二酸化炭素を使う抽出法(SC-CO₂:supercritical CO₂ extraction)という2つの方法を比較しました。UAEでは70%のエタノール水溶液(原料と溶媒の比は1対10、重量/体積比)を用い、45℃で30分間の処理が行われました。一方SC-CO₂法では、10%のエタノールを補助溶媒として加えたうえで、35メガパスカル、50℃という条件で抽出が行われました。これらの条件は、事前の予備実験や過去に発表された研究をもとに選ばれたものです。
研究でわかったこと
得られた抽出物の抗酸化能力は、総フェノール含量(TPC)、総フラボノイド含量(TFC)、そしてDPPH法とABTS法という2種類のラジカル消去活性試験によって評価されました。
- 総フェノール含量:UAE抽出物で84.55±0.92 mg GAE/g(乾燥重量あたり)
- 総フラボノイド含量:UAE抽出物で31.00±0.55 mg QE/g(乾燥重量あたり)
- DPPHラジカル消去活性:阻害率65.28±0.36%(IC₅₀=61.29 µg/mL)
- ABTSラジカル消去活性:阻害率62.43±0.82%(IC₅₀=66.07 µg/mL)
これらの指標において、UAEはSC-CO₂法と比べて統計的に有意に(p<0.05)優れた結果を示したと報告されています。この結果を受けて、より効率の良かったUAE抽出物について、LC-ESI-MS/MSという分析手法を用いた詳細な成分解析が行われ、28種類の化合物が同定されました。
成分の内訳としては、フラボノイド類やフェノール酸類といったフェノール化合物が主体を占め、そのほかに有機酸、ヌクレオチド、リン酸化糖、クマリン類なども少量含まれていたとされています。特に注目される点として、ダフネチン、シナポイルリンゴ酸、シリンガアルデヒド、N-アセチルグリシン、DL-6,8-チオクト酸、エスクリンといった成分は、これまでタマネギの皮からは報告されていなかった(暫定的に同定された)ものとして挙げられており、このイエメン品種に特徴的な化学組成を示す可能性があるとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、イエメンの特定品種の赤タマネギ外皮を対象に、実験室規模の条件下でUAEとSC-CO₂という2つの抽出法を比較したものです。得られた成分については抗酸化能力の指標での評価にとどまり、実際に体内でどのような働きをするかを検証したものではありません。また、条件設定は予備実験と既存文献に基づくものであり、今回の結果が他の抽出条件や他品種のタマネギにそのまま当てはまるとは限りません。一つの研究による知見であり、結論が確定したものではない点に留意が必要です。
まとめ
本研究では、イエメン産赤タマネギ「Ba Fatim」の外皮から抗酸化成分を取り出す方法として、超音波抽出法(UAE)が超臨界CO₂抽出法(SC-CO₂)よりも高い回収効率を示したと報告されています。さらに詳細な成分分析により28種類の化合物が同定され、中にはこれまでタマネギの皮から報告されていなかったとされる成分も含まれていました。著者らは、これらの知見がイエメン産赤タマネギの外皮を機能性食品や医薬品分野に活用しうる有望な資源として位置づけるものだとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:超音波法と超臨界CO₂法によるイエメン産赤タマネギ外皮抽出物の抗酸化回収率の比較評価とLC-ESI-MS/MSによる超音波抽出物のプロファイリング(サイエンティフィック・リポーツ・2026年08月)