桑の実(マルベリー)は鮮やかな色と独特の風味を持つ果実で、ワインなどの発酵飲料の原料としても利用されています。果実酒を造る際には、果肉ごと発酵させる方法と、果汁だけを搾って発酵させる方法があり、その違いが最終的な品質にどう影響するのかは、意外と詳しく調べられてきませんでした。今回紹介する研究では、桑の実の果肉ワイン(MPW)と果汁ワイン(MJW)を実際に発酵・貯蔵させながら、その品質や香り成分の変化を比較しています。
研究でわかったこと
この研究では、桑の実の果肉を使ったワイン(MPW)と、果汁だけを使ったワイン(MJW)を、発酵からその後の貯蔵期間まで通して比較し、品質特性と揮発性成分(香りのもとになる成分)のプロファイルを系統的に調べています。
まず、酵母による発酵によって抗酸化活性が大きく高まり、ラジカル消去率(酸化を引き起こす物質を消去する能力の指標)が90%に達したことが報告されています。また、果肉が残っている状態で発酵させたMPWでは、ポリフェノール類やアントシアニン(赤紫色の色素成分)の保持率が、果汁のみのMJWよりも高くなったとされています。
香り成分については63種類の揮発性化合物が同定され、MPWの発酵では風味の複雑さが増すとともに、果柄(茎の部分)が残ることで青草のような香り(ハーブ様のノート)が加わることが示されています。
さらに貯蔵期間中の変化にも注目しており、MPWではポリフェノールやアントシアニンの分解が緩やかで、より高い生理活性と安定性が維持されたと報告されています。一方、香り成分については貯蔵開始から25日を過ぎたあたりでアルコール類やエステル類を中心に減少がみられたとされています。
これらの結果から、果肉を使った発酵の方が、生理活性成分をより効果的に保持できる可能性が示唆されています。研究チームは、この手法が食品添加物を使わずに保存性を高める実用的な方法となりうるとし、付加価値の高い発酵果実飲料を開発するための一つの戦略になり得ると述べています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、桑の実ワインという特定の発酵飲料を対象に、原料処理方法(果肉利用か果汁利用か)の違いによる品質・香り成分・貯蔵安定性の変化を比較したものです。ここで報告されている抗酸化活性や成分保持率の向上は、あくまでこの実験条件下での結果であり、健康効果や体への作用を直接示すものではない点に注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
桑の実ワインを果肉ごと発酵させるか、果汁だけを使って発酵させるかによって、抗酸化活性やポリフェノール・アントシアニンの保持、香りの複雑さ、そして貯蔵中の安定性に違いが見られることが報告された研究でした。果肉を活かした発酵は、添加物に頼らずに品質を保ちやすくする一つの手がかりになるかもしれないと示唆されています。今後、さらなる研究の積み重ねが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:原料処理方法の違いが桑の実ワインの品質に及ぼす影響(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)