ゴボウは食物繊維が豊富な根菜として知られていますが、発酵の力でその成分をさらに変化させられるとしたら、どんな違いが生まれるのでしょうか。今回紹介するのは、ゴボウの根を「紅茶菌(きんかちゃ、Eurotium cristatum)」という微生物を使って固体発酵させ、栄養成分や抗酸化に関わる働きがどのように変化するかを調べた研究です。Eurotium cristatumは黒茶(プーアル茶の一種である茯茶など)の発酵に使われることで知られる微生物で、食品発酵の分野で注目されている存在です。この研究では、そうした発酵の力を野菜であるゴボウに応用した場合に何が起こるのかを検証しています。
研究でわかったこと
研究チームは、ゴボウの根をEurotium cristatumで固体発酵させ、発酵させていないゴボウと比較しました。その結果、発酵によってタンパク質含量が発酵前の1.37倍に増加したことが報告されています。
また、抗酸化に関わる働きにも大きな変化が見られました。DPPHおよびABTSという、抗酸化能を評価する際によく用いられる化学的な指標において、いずれもラジカル消去活性が90%を超えたとされています。さらに、線虫(Caenorhabditis elegans)を用いた実験では、細胞内の活性酸素種(ROS)のレベルが62.7%低下したことが示されました。
成分の中身をより詳しく調べるため、UPLC-ESI-MS/MSという分析手法を用いてポリフェノール類(フェノール化合物)のプロファイリングが行われ、全体で74種類のフェノール化合物が同定・定量されました。興味深いことに、そのうち10種類のフラボノイドは発酵させたゴボウ根でのみ検出され、発酵前には見られなかったとされています。これは、微生物のはたらきによって成分が新たに作られたり、構造が変化したりした可能性を示すものと位置づけられています。
さらに、検出されたフェノール化合物の量と、先述の3つの抗酸化指標(DPPH、ABTS、線虫でのROS低減)との関連を調べる相関解析が行われ、抗酸化能の向上と有意に関連する化合物が11種類特定されました。中でも、シナピン酸、3-ヒドロキシフラボン、リクイリチゲニン、サクラネチンという4つの化合物は、3つの抗酸化指標すべてと正の相関を示したとされています。加えて、抗酸化に関連する共通のターゲットとしてプロスタグランジンG/Hシンターゼ1(PTGS1)およびPTGS2が挙げられ、特にPTGS1は体内でのプロスタグランジン生成に恒常的に関わる酵素であることから注目されています。
特に注目されるのは、3-ヒドロキシフラボン、リクイリチゲニン、サクラネチンという3つの化合物が発酵後に新たに検出されたという点です。研究チームは、これはEurotium cristatumによる発酵がこれらのフラボノイドの合成や構造変化に関わっていることを示す直接的な証拠であり、ゴボウ根の抗酸化に関わる成分プロファイルおよび機能性を高めていると述べています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ゴボウ根を対象とした固体発酵の実験を通じて、成分変化と抗酸化に関わる指標との関連を調べたものです。DPPHやABTSといった指標は試験管内での化学的な抗酸化能を示すものであり、線虫を用いた実験結果も含め、これらの結果がヒトの体内での効果を直接保証するものではない点には注意が必要です。また、本研究はあくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後さらなる検証が積み重ねられることで、発酵ゴボウの機能性についての理解が深まっていくことが期待されます。
まとめ
今回紹介した研究では、ゴボウ根をEurotium cristatumで固体発酵させることで、タンパク質含量の増加や、DPPH・ABTSによる抗酸化能の向上、線虫でのROS低減といった変化が報告されました。あわせて、発酵によって新たに出現したフラボノイドが抗酸化能の向上と関連している可能性が示唆されています。発酵という古くからの技術が、身近な野菜の成分をどのように変化させうるのか、今後の研究の広がりが注目されるテーマといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ゴボウ根の紅茶菌(Eurotium cristatum)固体発酵:栄養変化、抗酸化能の向上とフェノール再構成との関連(アンチオキシダンツ・2026年06月)