著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Advances In Social Humanities Research

ライセンス: CC BY-SA 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

インドネシアのグヌンキドゥル県には、「ワラン・ゴレン」と呼ばれる、バッタを揚げて作る料理の食文化があります。主に使われるのは、ワラン・カユと呼ばれるバッタ(学名 Valanga nigricornis)です。研究チームによると、この料理は、石灰岩が雨水などに溶けてできたカルスト地形という環境の中で、人々が身近な生き物を食料として利用してきた歴史を映しています。

かつて地元の食習慣だったワラン・ゴレンは、いまでは観光客向けの名物として経済的な価値も持つようになりました。一方で、生息地の劣化、農薬の使用、地元産バッタの減少、生態に関する知識の継承の弱まり、文化的な背景を伴わない商品化などにより、この食文化の本来の姿が損なわれるおそれも指摘されています。

そこで著者らは、三つの問いを立てました。バッタの利用と保全にはどのような地域の知恵が表れているか。ワラン・ゴレンはグヌンキドゥルの食の観光の個性づくりにどう役立っているか。そして、生態系の持続性を保ちながら観光の個性も強める総合的な保全策とはどのようなものか、という問いです。

調べ方

研究チームは、人々の暮らしの中に入って意味や実践を記述する「エスノグラフィー(民族誌)」の手法による質的研究を行いました。調査地は、バッタの生息地や捕獲、加工と関わりの深い県内のスマヌ、パリヤン、ウォノサリです。

話を聞いた相手は、伝統的なバッタ捕りの人々、ワラン・ゴレンを作って売る小規模事業者、実際に食べた観光客、行政の関係者です。研究者は捕獲の現場に参加しながら観察し、聞き取り調査や記録を重ねたうえで、関係者を集めた少人数の話し合い(フォーカスグループ・ディスカッション)を通じて結果をまとめ、保全策を組み立てました。複数の情報源や手法を突き合わせることで、結果の信頼性を高めたとしています。

主な結果

著者らは、さまざまな形の地域の知恵を報告しています。地元では数種類のバッタを見分けて食用にしており、なかでもワラン・カユが最も好まれています。捕獲は「ニュルフ」と呼ばれ、主に夜19時から23時ごろ、懐中電灯などの簡単な道具を使って植物にとまったバッタを手で捕まえます。どの時期にどこで捕れるかという知識は、長年の経験から身につけたものです。

捕り手たちには、守るべき心得もありました。植物をむやみに傷めない、一か所で取り尽くさない、小さな個体は育つまで残す、捕る場所についての非公式な取り決めを守る、といったものです。研究チームは、保全の知恵が正式な規則としてではなく、日々の生業の中に根づいていると指摘しています。加工では、羽や内臓を取り除いて洗い、ニンニクやエシャロット、塩などで下味をつけてから揚げます。ジャワの甘い煮込み料理「バチェム」風の味付けと二度揚げで、よりカリッとした食感と日持ちを得る工夫や、甘辛味などの味の展開も見られました。

市場の面では、休暇シーズンや観光客が増える時期を中心に需要が高く、SNSや包装の工夫、味の多様化が販路の拡大を後押ししていました。報告されている2026年の平均価格は1キログラムあたり約25万ルピアです。一方で地元産のバッタは手に入りにくくなっており、ブロラや西ジャワ、マドゥラ、ランプンなど県外の各地からの仕入れが広がっていました。研究チームは、商売の継続と「地元ならでは」という本物らしさとの間に緊張関係が生じていると見ています。卵から育てる養殖への期待もありますが、温度管理などの技術的な課題が残っており、さらなる研究が必要だとしています。

観光客は当初、ワラン・ゴレンを変わった食べ物、いわゆる「ゲテモノ」として受け止めがちでした。しかし、その歴史や環境への適応について説明を受けると、文化的な食べ物として理解するようになったといいます。著者らは、食べるだけでは文化的な意味は伝わらず、物語や解説による橋渡しが必要だと述べています。また、商品の独自性、伝統的な加工、地域の歴史、訪問者の体験という四つの要素が合わさることで、景観に頼る他の観光地との違いが生まれるとしています。

提案された保全策と研究の意味

研究チームは、四つの柱が支え合う総合的な保全モデルを提案しました。一つ目は生態系の保全で、生息地や植生の保護、有害な農薬の削減、捕獲区域の管理などです。二つ目は文化の保全で、捕獲や加工の知識の記録、次世代への継承、デジタルでの保存、食のフェスティバルが含まれます。三つ目は地域経済の強化で、文化に根ざしたブランドづくり、包装や衛生、法的な許認可の整備、食の観光プランの開発です。四つ目は、大学などの研究者、行政、地域社会、メディア、事業者の五者による連携です。

県外産の仕入れについて、著者らは一律に排除するのではなく、産地を明らかにして地元産と区別する説明を整えることが、グヌンキドゥルの食の個性の信頼を守ると論じています。この研究は、ワラン・ゴレンを単なる食品ではなく、生態や歴史、人々の暮らしの物語を伴う文化的な体験として捉え直しました。地域の食文化を観光に生かすには、売ることと並んで、その背景にある自然と知恵を守り伝えることが欠かせない。研究からはそうした視点が伝わってきます。

原著論文の著者・所属:Minta Harsana(Universitas Negeri Yogyakarta)、Afia Fauziah(Universitas Negeri Yogyakarta, Indonesia)、Fajar Nur Cahyani(Universitas Negeri Yogyakarta, Indonesia)、Rika Nuryani Suwarno(Universitas Negeri Yogyakarta)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minta Harsana, Afia Fauziah, Fajar Nur Cahyani, Rika Nuryani Suwarno Local Wisdom-Based Conservation Strategy for Fried Grasshoppers to Strengthen Gunungkidul's Culinary Tourism Identity. Advances In Social Humanities Research 2026-09-29. DOI: 10.46799/adv.v4i9.656. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。