著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃にすみつく細菌で、その感染は世界的な公衆衛生上の課題とされています。感染率は下がりつつありますが、抗菌薬が効きにくい菌の増加や、複数の薬を飲み続ける治療をやり遂げにくいことが、対策の妨げになっています。

食事は胃の粘膜に直接触れるため、ピロリ菌との関わりが注目されてきました。ただ、特定の食品や栄養素だけを見る方法では、食事全体の組み合わせをとらえにくいという問題があります。そこで、ふだんの食べ方をまとめて「食事パターン」としてとらえる分析が使われています。食事パターンは地域や文化によって大きく異なり、中国でのこれまでの研究は東部の沿岸地域に偏っていました。

著者らは、独自の食文化をもつ中国北西部の人々を対象に、主な食事パターンとピロリ菌感染との関係を調べるとともに、ふだんの食事パターンが除菌治療の成功率や治療中の副作用と関係するかどうかを明らかにしようとしました。

どのように調べたか

研究は2つの部分からなります。1つ目は、西安市の西京病院消化器内科の外来患者を対象に、ある時点での食事と感染の有無を比べる横断研究です。873人が参加し、ピロリ菌陽性の割合は79.8%でした。陽性者と陰性者で年齢や生活習慣などの背景をそろえる処理(傾向スコアマッチング)を行い、最終的に464人(陽性298人、陰性166人)を分析しました。

2つ目は、同じ診療科で症状のないピロリ菌陽性者を登録し、中国の診療ガイドラインに沿った除菌治療の経過を追う前向きコホート研究で、476人を分析しました。治療中の副作用は、参加者が追跡時に自分で申告した不調にもとづいて調べました。

食事は、陝西省で作られ検証された食物摂取頻度調査票を使い、27品目について食べる頻度と量を尋ねて1日あたりの摂取量を計算しました。そのうえで、一緒に食べられやすい食品のまとまりを統計的に見つけ出す「因子分析」という方法で、食事パターンを導き出しました。2つの研究は対象者と調べる結果が異なるため、パターンはそれぞれ別に求めています。各パターンへの当てはまり具合(スコア)で参加者を4群に分け、最も当てはまらない群と最も当てはまる群を比べました。比較には「オッズ比」という指標を用い、1より大きければその結果が起こりやすい関係、1より小さければ起こりにくい関係を示します。

主な結果

横断研究では、「伝統的北西部型」「バランス型」「植物性中心型」の3つの食事パターンが見つかりました。著者らが塩分が多く味の濃い食事と位置づける伝統的北西部型に最もよく当てはまる群は、最も当てはまらない群に比べて、ピロリ菌陽性であるオッズ比が3.776でした。一方、植物性中心型に最もよく当てはまる群ではオッズ比が0.479で、感染との逆向きの関連がみられました。バランス型には統計的に意味のある関連はありませんでした。

コホート研究では、「高たんぱく型」(赤身肉、鶏肉、飲料など)、「伝統的北西部型」(塩漬け・漬物類、ビール、茶、白酒、加工肉、麺類など)、「健康型」(大豆製品、アブラナ科の野菜、きのこ、果物、ナッツなど)の3パターンが導かれました。全体の除菌成功率は88.7%で、いずれの食事パターンも除菌の成否と統計的に意味のある関連を示さず、年齢や性別で分けた分析でも同様でした。

除菌治療中に副作用があったのは参加者の20.4%で、副作用のあった人の中では口の中の苦味が32.0%と最も多く、吐き気、下痢、めまいが続きました。伝統的北西部型に最もよく当てはまる群は、最も当てはまらない群に比べて副作用のオッズ比が0.396と低くなっていました。ただし、スコアの増加に伴う連続的な変化を調べた分析では、副作用が減っていく傾向はみられたものの、統計的に意味のある水準には達しませんでした。

研究が示すこと

著者らは、ふだんの食事パターンはピロリ菌感染や治療中の副作用とは関連していた一方、除菌の成功率そのものとは関連していなかったとまとめています。除菌の成否については、強力な抗菌薬治療の影響が大きく、日常の食事から得られる成分量は治療効果を左右するほどには届きにくいとの見方を示しています。

伝統的北西部型と副作用の少なさとの関連について、著者らは発酵食品や塩分による苦味の感じにくさなどの可能性を挙げつつ、慎重に解釈すべきだとしています。長期の高塩分摂取は胃の病気の確立した危険因子であり、この結果は塩分を増やすことを勧めるものではなく、治療中にふだんの食の好みを保つことを支持するにとどまると述べています。また、食事の記録は記憶に頼る調査票で一度だけ行われたこと、抗菌薬への耐性など除菌の成否を左右する情報がないことなどを限界として挙げています。

今回の研究は観察にもとづくもので、食事が感染や副作用の原因であることを示したわけではありません。それでも、食事パターンがピロリ菌の除菌効果とは別に、感染の起こりやすさや治療の受け止め方と関わっている可能性を、地域の食文化に即して示した点に意味があります。

原著論文の著者・所属:Huan Zhang(Department of Gastroenterology, The 961th Hospital of Joint Logistics Support Force of PLA; State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Qimeng Pang(Department of Gastroenterology, 3201 Hospital; State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Nannan Li(Department of Gastroenterology, The 961th Hospital of Joint Logistics Support Force of PLA, Qiqihar, China)、Jumei Yin(State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Jing Zhang(State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Xiaojing Zhu(State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Lei Shang(Department of Health Statistics, School of Preventive Medicine, Fourth Military Medical University, Xi'an, China)、Yongquan Shi(State Key Laboratory of Holistic Integrative Management of Gastrointestinal Cancers and National Clinical Research Center for Digestive Diseases, Xijing Hospital of Digestive Diseases, Fourth Military Medical University)、Zheyi Han(Department of Gastroenterology, Air Force Medical Center, Fourth Military Medical University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Huan Zhang, Qimeng Pang, Nannan Li, et al. Daily dietary patterns associated with Helicobacter pylori infection and eradication-related adverse events, but not eradication rate: a cross-sectional and prospective cohort study. Frontiers in Nutrition 2026-08-04. DOI: 10.3389/fnut.2026.1821481. 原著ライセンス:CC BY.