パーキンソン病は、体の動きに関わる神経細胞が徐々に失われていく神経変性疾患で、アルツハイマー病に次いで多くみられることが知られています。現在の治療法は症状を和らげることはできても、病気の進行そのものを止めることは難しく、副作用の問題もあります。そうした中で、食用油に含まれる成分が神経を保護する働きを持つのではないかという視点から研究が進められてきました。今回紹介するのは、亜麻仁油やゴマ油、ニゲラサティバ油(いわゆるブラッククミンシードオイル)など、身近な種子油・植物油とパーキンソン病との関係をまとめたレビュー論文です。
研究でわかったこと
この研究は、2000年から2025年に発表された文献をPubMed/MEDLINEやWeb of Science、Scopus、Cochrane Libraryなど複数のデータベースから検索し、種子油・植物油やその成分とパーキンソン病との関連を調べた論文を対象としています。最終的に21件の研究が選ばれ、その内訳は動物実験などの前臨床研究16件、認知機能を指標としたヒトを対象とした介入試験2件、背景情報として参照された総説3件でした。
パーキンソン病の発症や進行には、細胞を傷つける「酸化ストレス」や、脳内の「神経炎症」、異常なタンパク質(αシヌクレイン)の蓄積などが関わっているとされています。レビューでまとめられた研究では、種子油や植物油がこれら複数の経路に働きかける可能性が報告されていました。具体的には、酸化ストレスを抑える酵素(SOD、CAT、GSH)の働きが高まり、酸化ストレスの指標となる物質(ROSやMDA)が減少したこと、炎症に関わる物質(NF-κB、COX-2、TNF-α、IL-1βIL-6)の働きが抑えられたこと、そして脳の「黒質」と呼ばれる部位にあるドーパミン神経細胞が保護されたこと、一部の研究ではαシヌクレインの蓄積が減少したことなどが報告されています。また、シソ由来の「perilla oil(えごま油の一種)」についてのみ、腸と脳が影響し合う「腸脳相関」への作用も報告されていました。
数ある油の中でも、亜麻仁油とニゲラサティバ油は、ロテノンや6-OHDAという物質を使ってパーキンソン病に似た状態を作り出した実験モデルにおいて、比較的一貫して神経保護的な効果が確認されたとされています。一方で、えごま油、ゴマ油、マルラ油、ヒマシ油、ココナッツ油については、現時点での研究数が少なく、エビデンスはまだ限定的だとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文はこれまでに発表された研究をまとめたレビュー(総説)であり、新たに実験を行ったものではありません。紹介されている効果の多くは、動物やモデル生物を用いた前臨床段階の研究に基づくもので、ヒトを対象とした研究はごく一部にとどまっています。したがって、これらの油がヒトのパーキンソン病の予防や治療に直接役立つと結論づけられる段階ではなく、著者らも、実際に薬として使えるかを見極めるにはヒトでの吸収・代謝の仕組み(薬物動態)、安全性、適切な摂取量についてのさらなる研究が必要だと述べています。あくまで一つの研究領域を整理したものであり、結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
今回紹介したレビューでは、亜麻仁油やニゲラサティバ油をはじめとする種子油・植物油が、パーキンソン病に関わる酸化ストレスや神経炎症、ドーパミン神経細胞の保護といった複数の経路に作用する可能性が、主に動物実験などの前臨床研究から示唆されていました。中でも亜麻仁油とニゲラサティバ油は、今後の初期段階の臨床試験の候補として有力ではないかと著者らは位置づけています。ただし、これらはまだ研究の初期段階であり、身近な油を食べればパーキンソン病を防げるといった結論には至っていません。今後、ヒトを対象とした研究の積み重ねが期待される分野といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:パーキンソン病における種子油および選定食用植物油の神経保護作用の可能性:機序、前臨床エビデンス、臨床応用への展望(食品イノベーション・栄養・環境科学ジャーナル・2026年08月)