刺梨(Rosa roxburghii Tratt)は、ビタミンCをはじめとする成分が豊富とされる果実で、ジュースなどに加工した際に生じる搾りかす(ポマース)には、不溶性食物繊維とポリフェノールが多く含まれることが知られています。ポリフェノールは体によいイメージを持たれがちな成分ですが、実は消化管を通過する過程で分解・損失しやすいという弱点があります。もし食物繊維とポリフェノールを組み合わせることで、この損失を抑えられるとしたら――そんな発想から行われたのが今回紹介する研究です。
研究チームは、刺梨の搾りかすから得た不溶性食物繊維(IDF)とポリフェノールを、共有結合を介さない「非共有結合的な吸着」という方法で複合体化し、「IDF-ポリフェノール複合体(IDF-PP)」を作製しました。そのうえで、口から摂取した食品が胃や小腸を通過する過程を模した「in vitro消化試験」と、大腸内での分解を模した「in vitro大腸発酵試験」を行い、この複合体がどのようにふるまうかを調べています。
研究でわかったこと
まず、上部消化管(胃・小腸)を模した消化試験では、IDF-PPは遊離のポリフェノールに比べてポリフェノールの早期の損失が抑えられることが確認されました。さらに大腸発酵を模した試験では、ポリフェノールが一気に放出されるのではなく、より緩やかに放出される様子が観察されたとされています。
構造の解析からは、発酵が進むにつれて複合体の構造が変化し、多孔質(スポンジのような小さな孔が多い構造)の残さマトリックスが形成される一方で、もとの多糖(食物繊維の骨格)の一部は保持されていたことが示されました。
また、発酵によって生じる代謝産物にも注目しています。IDF-PPは、遊離のポリフェノールや複合体化していない食物繊維(IDF)単体と比較して、短鎖脂肪酸、とりわけ酪酸の産生を増加させたと報告されています。あわせて、腸内細菌叢の構成にも変化がみられ、PrevotellaをはじめとするBacteroidetes門の細菌や、Faecalibacteriumの相対的な存在割合が高まる一方、Proteobacteria門の相対的な存在割合は低下したとされています。さらに、発酵後の産物では抗酸化活性やα-グルコシダーゼ阻害活性(糖の分解に関わる酵素の働きを抑える性質)も高まったことが示されています。
これらの結果から、研究チームは、刺梨搾りかす由来のIDF-PPが、大腸内での発酵に応じて機能を発揮する「発酵応答性」の食品素材として、腸内細菌による発酵を調整しうる可能性を持つ有望な素材であると考察しています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はあくまでin vitro(試験管内)での消化・発酵モデルを用いた基礎的な検討であり、ヒトの体内で同様の現象が起こるかどうかを直接示したものではありません。今回得られた知見は、刺梨由来の複合体という一つの素材について、一つの研究で観察された結果であり、これをもって健康効果が確立したわけではない点に注意が必要です。今後、異なる条件や実際の生体を対象とした研究による検証が期待される段階だといえるでしょう。
まとめ
今回紹介した研究では、刺梨の搾りかすから作られた不溶性食物繊維とポリフェノールの複合体が、消化管での早期のポリフェノール損失を抑え、大腸での発酵を通じて短鎖脂肪酸産生や特定の腸内細菌の増加、抗酸化・酵素阻害活性の向上と関連する可能性が示唆されています。食物繊維とポリフェノールを組み合わせるという工夫が、腸内環境に働きかける新たな素材設計のヒントになるかもしれない、興味深い基礎研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Rosa roxburghii Tratt由来不溶性食物繊維-ポリフェノール複合体の構造変化とプレバイオティクス様可能性:in vitro消化と大腸発酵における検討(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)