ジャガイモは世界中で加工・消費されていますが、皮をむいた際に出る「ジャガイモの皮」は、これまで単なる加工残さ(廃棄物)として扱われることが多い副産物でした。今回紹介するレビュー論文は、このジャガイモの皮を、健康に役立つ可能性のある成分(ニュートラシューティカル・機能性食品素材)や、環境負荷の少ないバイオ製品の原料として活用できないかを、既存の研究をもとに整理したものです。
ジャガイモの皮にはどのような成分が含まれているのか
この論文によると、ジャガイモの皮には食物繊維、フェノール酸、フラボノイド、グリコアルカロイド、レジスタントスターチ(消化されにくいデンプン)、タンパク質、酵素、ミネラルなどが豊富に含まれているとされています。これらの成分については、抗酸化作用、抗菌作用、抗炎症作用、創傷治癒への関与、心血管代謝系への作用、食品の品質を安定させる作用などが報告されていると紹介されています。
ただし論文は、こうした効果に関する証拠の多くが、試験管内での実験(in vitro)や動物モデル、食品系での研究にとどまっており、ヒトを対象とした臨床試験による裏付けはまだ限られている点を明確に指摘しています。
産業利用に向けた最近の技術動向
レビューでは、ジャガイモの皮を高付加価値な製品に変えるための近年の技術的な進展にも触れられています。具体的には、環境負荷の少ない抽出法(グリーン抽出)、成分を包み込んで安定化させるカプセル化技術、デンプンやタンパク質の回収技術、生分解性の食品包装材料への応用、ナノ粒子の合成といった手法が挙げられており、これらが循環型のバイオエコノミー(資源を循環させる経済の仕組み)の実現を後押しする可能性があるとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
一方で論文は、実用化に向けた複数の課題も指摘しています。ジャガイモの皮の成分組成は品種によって大きく異なること、グリコアルカロイドには安全性の観点から摂取量の上限が設定される必要があること、残留農薬の懸念があること、成分の生体への吸収されやすさ(生物学的利用能)にばらつきがあること、ヒトでの臨床的な証拠が乏しいこと、そして研究室レベルから実際の生産規模へと拡大する際の技術的な難しさなどです。
これらを踏まえて論文は、ジャガイモの皮を単なる農産物・食品廃棄物としてではなく、有望な「バイオリソース(生物由来資源)」として捉え直すべきだとしつつも、健康関連の用途に用いる際には、慎重な配合設計、用量の管理、そして標準化された加工・品質管理・安全性評価に基づく、より確かな検証(トランスレーショナルな証拠)が必要であると結論づけています。本レビューは特定の食品や成分の効果を確定的に示すものではなく、既存の研究を整理し今後の方向性を示したものである点に留意が必要です。
まとめ
今回紹介したレビューは、これまで廃棄物として扱われがちだったジャガイモの皮に、食物繊維やポリフェノールをはじめとする多様な機能性成分が含まれていることや、それらを活用するための最新の加工・抽出技術を整理したものです。同時に、品種による成分のばらつきや安全性の閾値、ヒトでの臨床データの不足といった課題も明確にされており、健康効果を語るにはまだ慎重な検証が必要な段階にあることがうかがえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ジャガイモの皮の高付加価値化:ニュートラシューティカル、機能性食品、持続可能なバイオ製品への応用(ディスカバー・フード・2026年08月)