この研究は、ポルトガルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Control
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:脂肪を減らしたサラミの「安全面」を確かめる
肉製品に含まれる脂肪のおよそ半分は飽和脂肪酸です。食事指針では、飽和脂肪酸を植物由来の不飽和脂肪酸に置き換えることが推奨されています。食品業界でも、伝統的なレシピを保ちながら脂肪を減らした肉製品の開発が進んでいます。ただし脂肪は食感や見た目、風味に加え、微生物の働きにも関わるため、単純に取り除くことはできません。
そこで注目されているのが「バイゲル」です。油をゲル化剤で固めた「オレオゲル」を、水を多く抱え込んだゲル(ハイドロゲル)の中に分散させた二層構造の素材で、固形の動物性脂肪に近い性質を持たせられます。
一方で、脂肪の量や組成が変わると、食品に生えるカビの代謝にも影響が出る可能性があります。カビの中には「マイコトキシン(カビ毒)」と呼ばれる有害物質を作るものがいます。カビ毒は非常に安定しており、加熱や冷凍でもほとんど分解されません。研究チームは、豚の固い脂肪をバイゲルに置き換えたサラミで、カビの生育とカビ毒の生成がどう変わるかを調べました。著者らによれば、こうした置き換えが毒素を作るカビに与える影響を、熟成肉製品の素材で調べた初めての研究です。
どのように調べたか
研究チームは、ひまわり油を含むバイゲルを用意しました。このバイゲルは、海藻由来のカラギーナンとローカストビーンガムで作ったゲルの中に、油をモノステアリン酸グリセリンで固めたオレオゲルを分散させたものです。サラミは食肉加工場のパイロット規模で3種類製造しました。伝統的なサラミ(ST)、豚の固い脂肪の65%をバイゲルに置き換えたもの(FS1)、100%を置き換えたもの(FS2)です。
それぞれについて、脂肪量、脂肪酸の組成、食感、微細な構造を調べました。カビの試験では、作ったサラミを細かく砕いて寒天に混ぜ、比較しやすい統一的な培地を作りました。この培地に、肉製品や食肉加工場から分離された3種類のカビを植えています。オクラトキシンAという毒素を作るペニシリウム・ノルディクムとアスペルギルス・ウェスターダイキエ、アフラトキシンを作るアスペルギルス・ノミウスです。25℃の暗所で7日間培養し、コロニーの広がりと毒素の量を比べました。
主な結果:食感は保たれ、カビの生育は変わらず、毒素は減った
サラミ100gあたりの脂肪量は、STが36.0g、FS1が23.1g、FS2が16.9gでした。伝統的なサラミと比べて、脂肪はそれぞれ36%と53%減っています。飽和脂肪酸の量も、FS1で41%、FS2で59%少なくなりました。食感の分析では、硬さ・付着性・まとまりやすさ・弾力のいずれにも統計的に有意な差はありませんでした。脂肪をすべて置き換えた場合でも、バイゲルは伝統的なサラミの食感を保つことができたと報告されています。
3種類のカビは、どのサラミ培地でもほぼ同じように育ちました。一方、毒素の量には差が出ました。脂肪をすべて置き換えたFS2の培地では、伝統的なサラミの培地と比べて、ペニシリウム・ノルディクムのオクラトキシンAが約28%、アスペルギルス・ウェスターダイキエのオクラトキシンAが30%少なくなりました。アスペルギルス・ノミウスが作るアフラトキシンG1は約88%減り、ほぼ抑えられた形です。65%置き換えのFS1では、伝統的なサラミとの差は統計的に明確ではありませんでした。
3種類の培地の間で、酸性度(pH)と、微生物が利用できる水分の指標である水分活性に差はありませんでした。このため著者らは、毒素量の違いはこれらの条件ではなく、脂肪の置き換えという培地の中身の違いによる可能性があると考えています。ほかの食品でも、脂質の多さとカビ毒の多さの関連は報告されています。ただし、その仕組みはまだ分かっていないと論文は述べています。
この研究が示すこと
この研究は、バイゲルを使えば食感を損なわずにサラミの脂肪と飽和脂肪酸を減らせることを示しました。さらに、脂肪を減らした組成ではカビの生育は変わらないまま、毒素の生成が少なくなる傾向が見られました。
ただし、これはサラミを混ぜた寒天培地を用い、毒素が作られやすい条件をそろえた実験室での比較です。実際の熟成条件での結果ではありません。毒素の測定値も正確な含有量ではなく、傾向をつかむためのものと位置づけられています。また、ゲル化剤そのものが毒素の減少にどの程度関わったかは、個別には評価されていません。こうした前提のうえで、この研究は、より健康的な肉製品を目指す配合の見直しが、カビ毒のリスクにも関わりうることを示しています。
著者:Ana Guimarães(Centre of Biological Engineering, University of Minho, Campus de Gualtar, 4710-057, Braga, Portugal)、Artur J. Martins(International Iberian Nanotechnology Laboratory, Av. Mestre José Veiga s/n, 4715-330, Braga, Portugal)、Lorenzo Miguel Pastrana(International Iberian Nanotechnology Laboratory, Av. Mestre José Veiga s/n, 4715-330, Braga, Portugal)、Pedro Sousa(Porminho Alimentação S. A, Travessa da Lage, 35, 4764-901, Vila Nova de Famalicão, Portugal)、Miguel Ângelo Cerqueira(International Iberian Nanotechnology Laboratory, Av. Mestre José Veiga s/n, 4715-330, Braga, Portugal)、Armando Venâncio(Centre of Biological Engineering, University of Minho, Campus de Gualtar, 4710-057, Braga, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ana Guimarães, Artur J. Martins, Lorenzo Miguel Pastrana, et al. Impact of low-saturated fat bigels on mycotoxin production in reformulated low-fat salami. Food Control 2026-10-03. DOI: 10.1016/j.foodcont.2026.112676. 原著ライセンス:CC BY.