著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
ベニバナは古くから花びらを天然の染料や食品の色付けに使ってきた作物です。花びらには水に溶ける黄色の色素と、水に溶けにくい赤色の色素が含まれています。しかし合成染料の普及で栽培は減り、現在は世界的に見ると小規模な作物にとどまっています。
研究チームによると、花びらの利用を広げるうえで問題になるのが、植物体のとげです。とげのある型(var. typicus)は手作業での収穫に手間と費用がかかります。そのため、とげのない型(var. inermis)の特徴を調べることが重要な研究課題とされてきました。一方で、地域に適応した在来系統について、とげの有無によって花びらの成分がどう違うかを比較したデータは限られていました。
そこで著者らは、ルーマニアの在来ベニバナを対象に、とげのある系統ととげのない系統の花びらの成分を比べました。今後の評価の土台となる予備的な基礎データを得ることが目的です。
何をどのように調べたか
材料は、ルーマニアの植物遺伝資源バンクから入手した4系統です。とげのある系統はモルドバ地方のボトシャニとバカウの在来集団の2つで、とげのない系統はテレオルマンの在来集団とカララシの系統の2つです。2024年にブカレストの同じ試験圃場で、同じ条件のもと栽培しました。満開期に花びらを手で摘み取り、日陰で乾燥させて分析しました。
調べた項目は、ポリフェノールの総量、フラボノイドの総量、個々のフェノール化合物の量、脂溶性ビタミン(ビタミンEとビタミンK1)、染料の総収率です。あわせて、試験管内で抗酸化力を測る3種類の方法(DPPH法、ABTS法、FRAP法)も用いました。これらの方法は、抽出液がどの程度「活性酸素のような不安定な物質」を打ち消したり、物質を還元したりできるかを化学反応で評価するものです。個々の化合物は、成分を分離して検出する高速液体クロマトグラフィー(HPLC-DAD)で測定しました。
主な結果
ポリフェノールの総量は、乾燥した花びら1グラムあたり没食子酸換算で23.72〜25.26ミリグラムでした。差は小さいものの統計的に有意で、とげのない2系統がいずれも最も高いグループに入りました。最大値はカララシの系統(R4-CL)で記録されました。フラボノイドの総量には、系統間で有意な差は見られませんでした。
論文の要旨によると、R4-CLは100%エタノールで抽出した場合のビタミンE量(乾燥重量100グラムあたり8.45ミリグラム)と天然染料の収率(5.56%)も最も高い値を示しました。一方、ビタミンK1はどの系統からも検出されませんでした。
個々の成分では、クロロゲン酸とカフェ酸が主なフェノール酸でした。量として最も多かったのはカフェ酸で、とげのない系統で特に多く含まれていました。ルチンとイソクエルシトリンは全系統で見つかりました。クエルセチンとイソラムネチンは、とげのある系統の一つ(R1-BT)だけで検出されました。アピゲニンとナリンゲニンはR4-CLで最も多く含まれていました。ただし著者らは、この分析法では他の成分と重なって検出される可能性を完全には排除できないとしています。そのため、これらの同定は暫定的なものと位置づけています。
抗酸化力は、測定法によって傾向が分かれました。DPPH法では、とげのある2系統のほうが、少ない濃度で効果を示しました。ABTS法ではとげのないR4-CLが最も高い値でした。FRAP法では4系統の間に有意な差はありませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、今回調べたとげのない在来系統が、成分の面で有望な特徴を持ち、扱いやすさという栽培上の利点もあると結論づけています。
ただし、この研究は1つの栽培年・1か所の圃場で行われたものです。各型について調べた系統も2つずつに限られます。分析の繰り返しも、系統ごとにまとめた1つの試料から取ったものです。そのため研究チームは、得られた違いをとげの有無による一般的な差とはみなさず、調べた特定の系統についての観察として扱っています。本研究は、ルーマニアの在来ベニバナの花びらの成分について、予備的な基礎データを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Cătălina Tudora(Testing Department, National Institute of Research-Development for Machines and Installations Designed for Agriculture and Food Industry-INMA, 6, Ion Ionescu de la Brad Avenue, 013813 Bucharest, Romania)、Adriana-Teodora Muscalu(Testing Department, National Institute of Research-Development for Machines and Installations Designed for Agriculture and Food Industry-INMA, 6, Ion Ionescu de la Brad Avenue, 013813 Bucharest, Romania)、Valentin-Nicolae Vlăduț(Testing Department, National Institute of Research-Development for Machines and Installations Designed for Agriculture and Food Industry-INMA, 6, Ion Ionescu de la Brad Avenue, 013813 Bucharest, Romania)、Ana-Cristina Fătu(Research-Development Institute for Plant Protection-ICDPP Bucharest, 8, Ion Ionescu de la Brad Blvd, District 1, 013813 Bucharest, Romania)、Danela Murariu(Banca de Resurse Genetice Vegetale “Mihai Cristea”, 17, 1 Mai Avenue, 720224 Suceava, Romania)、Florentina Gatea(Research-Development Institute for Plant Protection-ICDPP Bucharest, 8, Ion Ionescu de la Brad Blvd, District 1, 013813 Bucharest, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cătălina Tudora, Adriana-Teodora Muscalu, Valentin-Nicolae Vlăduț, et al. Phytochemical Variations in Spiny and Spineless Safflower (Carthamus tinctorius L.) Phenotypes. Plants 2026-09-28. DOI: 10.3390/plants15192959. 原著ライセンス:CC BY.