ワイン造りの最終工程には「清澄」という作業があります。ワインに含まれる渋み成分を取り除いて口当たりを整えるため、タンパク質を加えてにごりの原因物質と結合させ、沈殿させて除去する方法です。この清澄剤には伝統的にゼラチンやカゼイン、卵白(オボアルブミン)といった動物由来のタンパク質が使われてきましたが、アレルギー表示への対応や、持続可能性への配慮から、植物由来の代替素材への関心が高まっています。今回、ポルトガルのトラス・オス・モンテス・アルト・ドウロ大学の研究グループが、藻類の一種スピルリナ(Arthrospira platensis)から抽出した純度の高いタンパク質を清澄剤として使えるかを検証した研究を、学術誌フード・ケミストリー・エックスに発表しました。
スピルリナ丸ごとではなく、精製したタンパク質を取り出す
スピルリナは乾燥重量の60〜70%程度をタンパク質が占めるとされ、食用色素やサプリメントとしても利用されている微細藻類です。ただし、スピルリナの生の粉末(バイオマス)をそのままワインに加えると、独特の味や香りが移ってしまうことが過去の研究で報告されていました。そこで研究チームは、スピルリナの粉末からタンパク質だけを取り出して精製し、風味への影響を避けた抽出物を作ることを目指しました。
抽出方法としては、ガラスビーズで細胞を物理的に砕く「ビーズミル法」と、超音波を使う方法を比較検討しました。両者の性能に大きな差がなかったため、より簡便で大量生産に向くビーズミル法を選び、抽出時のpH(4.50、7.00、9.00)と塩化ナトリウム濃度(0M、0.5M、1M)の組み合わせを系統的に検討しています。その結果、pH7.00で塩化ナトリウム1Mという条件を採用したところ、タンパク質含有率63%という高純度の抽出物が、原料バイオマス中のタンパク質の25%を回収する形で得られました。得られたタンパク質は、エタノールを加えて沈殿させる方法で単離されています。
白ワインでは中程度、赤ワインでは既存の清澄剤を上回る渋み除去効果
実際の清澄効果は、ブドウの種子や果皮由来の渋み成分(プロアントシアニジン)を加えた「モデルワイン」を使って調べられました。白ワインを模した溶液(エタノール12%、pH3.20、プロアントシアニジン約19mg/L)に、業界の上限とされる濃度(50g/hL)でスピルリナタンパク質を加えたところ、渋み成分の81%が除去されました。これは植物由来のパタチンやエンドウ豆タンパク質、動物由来の卵白と同程度の水準で、ゼラチン(99.6%)やカゼイン(94.0%)にはやや及びませんでした。
一方、赤ワインを模した溶液(エタノール15%、pH3.50、プロアントシアニジン1123mg/L)では様相が異なりました。スピルリナタンパク質による渋み成分の除去率は30%で、比較対象としたほかの清澄剤(3〜19%)を上回る結果となったのです。研究チームは、この違いの背景にある仕組みについても分析を加えており、白ワインの環境ではタンパク質の構造的な柔軟性が、赤ワインの環境ではタンパク質が水素結合を受け取る力(水素結合受容能)が、それぞれ渋み成分の除去しやすさを左右する要因になっていると考察しています。つまり、同じタンパク質でも周囲の液体の組成によって働き方が変わる「マトリックス依存的」な性質があるとみられます。
この研究の位置づけと留意点
この研究は、精製したスピルリナタンパク質をワインの清澄剤として詳しく評価した取り組みとして著者らが位置づけているものです。抽出条件の最適化過程では、統計モデル上の当てはまりの良さを示しつつも、原料となるバイオマスのロット間のばらつきなど、モデルの予測精度をさらに高める余地がある要因が残っていることも著者らは指摘しています。また、今回の比較試験では清澄剤の投与量をすべて同じ濃度(50g/hL)に揃えていますが、これはタンパク質の純度や溶解性の違いを考慮していない設定である点も、著者らが実験上の前提として述べています。加えて、今回の検証はあくまで実際のワインではなく、渋み成分の濃度などを調整した「モデルワイン」を用いたものである点にも留意が必要です。
清澄剤としての性能に加えて、著者らはワイン用途で高純度のタンパク質抽出物を用いる意義として、アレルギー誘発性をより正確に評価しやすくなる点や、生のバイオマスをそのまま使う場合に懸念される風味への影響を抑えられる点も挙げています。
まとめ
この研究では、微細藻類スピルリナから高純度のタンパク質を効率よく取り出す抽出条件が検討され、得られたタンパク質がモデルワイン中の渋み成分を除去する働きを持つことが示されました。とりわけ赤ワインを模した条件では、比較に用いた既存の清澄剤よりも高い除去率が観察されています。ただし、これは一つの研究であり、実際のワインでの効果や商業的な実用性については、今後さらなる検証が必要と考えられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Elisa Costa, Miguel Ribeiro, Luı́s Filipe-Ribeiro, et al. Spirulina (Arthrospira platensis) protein as a sustainable alternative fining agent for wine: extraction, optimization and comparative mechanistic evaluation of proanthocyanidin removal in model wine systems. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104263.