著者の所属・活動拠点の国は、オランダです。

掲載誌:Food Hydrocolloids

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

豆乳フォームやプラントベースのホイップトッピング、代替卵など、大豆タンパク質を使った食品には『きめ細かく安定した泡』が求められる場面が多くあります。しかし同じ『大豆タンパク質』という原料でも、メーカーやロットによって泡立ち方にばらつきがあることは、食品開発の現場でよく知られた課題です。オランダのワーヘニンゲン大学の研究グループは、この泡立ち性能のばらつきの背景にある『分子レベルの性質』を体系的に調べ、フード・ハイドロコロイズ誌に発表しました(2026年07月)。

実験室で作った大豆タンパク質と市販品を比べる

研究チームはまず、脱脂した大豆粉から、3種類の異なる抽出方法(アルカリ抽出後に等電点沈殿させる方法、塩を使って抽出後に透析する方法、塩沈殿による方法)を組み合わせ、加熱の有無や乾燥方法(凍結乾燥・噴霧乾燥)を変えることで、性質の異なる6種類の実験室抽出タンパク質を作りました。加えて、中国・EU・アメリカから調達した13種類の市販大豆タンパク質(分離大豆タンパク質と濃縮大豆タンパク質)も分析対象に加えています。

比較のために測定したのは、水に溶ける割合(溶解性)、粒子サイズ、表面電荷(ゼータ電位)、大豆に含まれる代表的な貯蔵タンパク質である11Sグロブリン(グリシニン)と7Sグロブリン(β‐コングリシニン)の比率、加熱で変性する際に必要な熱量(変性エンタルピー)、表面張力といった『分子レベルの性質』です。泡の性能については、泡立てた際にどれだけ体積が増えるか(オーバーラン)と、泡の体積が半分になるまでの時間(半減期)という2つの指標で評価しました。

加熱と乾燥方法で性質が大きく変わる

示差走査熱量測定(DSC)という手法で調べたところ、実験室抽出のタンパク質は部分的に天然の構造を保っていたのに対し、市販タンパク質はいずれも完全に変性していることが分かりました。実験室抽出タンパク質の中でも、90℃で加熱した試料は非加熱の試料に比べて溶解性が大きく低下し(57.5〜76.3%から16.9〜36.8%程度へ)、粒子サイズも約6〜8マイクロメートルから19〜155マイクロメートルへと増大していました。これは加熱によってタンパク質同士の結合が進み、凝集体(アグリゲート)が形成されたことを示しています。また凍結乾燥した試料は噴霧乾燥した試料より溶解性が低く、より大きな凝集体を作る傾向も見られました。

抽出方法によっても性質は異なり、塩沈殿で得たタンパク質は変性エンタルピーが最も高く、より天然に近い構造を保っていた一方、塩抽出したタンパク質は変性の程度が大きいものの、アルブミン画分を多く含むためか溶解性はもっとも高い90.9%を示しました。SDS-PAGEというタンパク質を分離して見る手法では、いずれの抽出タンパク質にも7Sと11Sの両グロブリンが含まれることが確認され、抽出条件によってアルブミン(低分子量画分)の含まれ方にも違いが見られています。

『溶けやすさ』が泡立ちの鍵、ただし凝集が進むと話は別

実験室抽出タンパク質では、泡の性能に対して二つの相反する働きが観察されました。一つは、溶解性が高いほど界面(空気と水の境目)に移動して吸着できるタンパク質の数が増え、泡立ちを助けるというプラスの効果です。粒子サイズが小さいことや表面張力が低いことも、泡の性能を高める方向に働く可能性が示されました。もう一つは、タンパク質が凝集体を作ることで、逆に泡の性能を損なうというマイナスの効果です。凝集体は界面に吸着できるタンパク質の量を実質的に減らしたり、泡の膜自体を不安定にしたりすると考察されています。

一方、市販タンパク質については様子が異なりました。市販品はすべて完全に変性しており、泡の安定性はほぼ溶解性だけで説明できる関係が見られた一方(相関の強さを示すR二乗値は0.81)、他の性質(粒子サイズや表面電荷など)が泡の安定性に与える影響はごくわずかでした(R二乗値でおおむね0.09〜0.38程度)。研究チームは、これは市販タンパク質があらかじめ相当程度凝集した状態にあるためではないかと考察しており、市販品では『凝集によるマイナスの効果』しか観察されなかったとしています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、大豆タンパク質という一つの原料について、限られた抽出条件・市販品ラインナップの範囲で分子レベルの性質と泡の性能との関係を調べたものであり、ここで見られた関係がすべての植物性タンパク質や、あらゆる加工履歴の原料に当てはまると確定づけるものではありません。また、著者らは、分子レベルの性質と泡の性能との関係が実験室抽出タンパク質では成り立つ一方、タンパク質の凝集が大きく進んだ場合にはその関係が崩れてしまうことを強調しており、市販原料の品質のばらつきを理解するうえでは『どの性質を測るか』だけでなく『どれだけ凝集が進んでいるか』を併せて評価する必要があることを示唆しています。

まとめ

今回の研究は、大豆タンパク質の泡立ちやすさや泡の安定性が、単一の指標ではなく、溶解性・粒子サイズ・表面張力といった複数の分子レベルの性質と、タンパク質がどれだけ凝集しているかという状態の組み合わせで決まりうることを示しました。プラントベース食品の開発において原料ごとの機能性のばらつきを理解するための一つの手がかりとなる基礎研究といえますが、一つの研究で得られた知見であり、今後さらなる検証が必要とされる段階にあります。

著者:Jeta Purrini(Laboratory of Physics and Physical Chemistry of Foods, Wageningen University, Bornse Weilanden 9, 6708, WG, Wageningen, the Netherlands)、Constantinos V. Nikiforidis(Laboratory of Biobased Chemistry and Technology, Wageningen University & Research, Bornse Weilanden 9, 6708 WG, Wageningen, the Netherlands)、Erik van der Linden(Laboratory of Physics and Physical Chemistry of Foods, Wageningen University, Bornse Weilanden 9, 6708, WG, Wageningen, the Netherlands)、Jack Yang(Laboratory of Physics and Physical Chemistry of Foods, Wageningen University, Bornse Weilanden 9, 6708, WG, Wageningen, the Netherlands)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jeta Purrini, Constantinos V. Nikiforidis, Erik van der Linden, et al. Solubility and aggregation state govern foam performance of lab-extracted and commercial soy proteins. フード・ハイドロコロイズ (2026). DOI: 10.1016/j.foodhyd.2026.113178.