著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。

掲載誌:Frontiers in Health Services

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

マレーシアでは、心臓病や糖尿病、がんなど、人から人へうつらない慢性的な病気である「非感染性疾患」が大きな負担となり、さらに増えつつあります。こうした病気の多くは、食事や運動、飲酒、喫煙といった、変えることのできる生活習慣と関連しています。医療費の増加だけでなく、働く人の生産性にも影響が及ぶ問題です。

この研究は、主な生活習慣上のリスクによって生じているマレーシアの非感染性疾患の負担が現在どれほどかを推計しました。あわせて、人々の生活習慣が世界保健機関(WHO)の推奨に沿った場合に、どれだけの病気と経済的損失を防げる可能性があるかを試算しています。

どのように調べたか

著者は、英オックスフォード大学が開発した公開のシミュレーションモデル「PRIME」を用いました。このモデルは、複数の研究をまとめた分析(メタアナリシス)の知見にもとづき、リスク要因の分布が変わると特定の年の病気の件数がどう変わるかを計算します。現状の分布と、仮定した別の分布(反実仮想シナリオ)を比べる仕組みです。

対象としたのは8つの行動リスク要因です。食塩、脂質、食物繊維、果物・野菜、遊離糖類(摂取エネルギーと体格指数BMIを介した経路)といった食事の要素に加え、運動不足、飲酒、喫煙が含まれます。死亡数ではなく、20種類の非感染性疾患の年間発症件数に注目することで、健康負担をより広くとらえようとしました。

次に、推計した病気の件数を金額に換算しました。治療にかかる直接費用に加え、病気による欠勤や、出勤していても体調不良で能率が落ちる状態による生産性の損失を、間接費用として算出しています。

喫煙については、完全にやめる仮定はモデルの枠組みでは扱いにくいとしています。そのため、紙巻きたばこが燃焼を伴わない低曝露の代替製品にすべて置き換わるという仮定を置きました。論文はこのシナリオについて、政策提言でも実際の消費行動の予測でもないと明記しています。害の低減という道筋の効果の上限を示すための、例示的な試算と位置づけています。

主な結果

推計によると、対象とした行動リスクに起因する病気は年間約770万件にのぼりました。主要な推計による経済的負担は約419億米ドルで、内訳は直接費用が約148億ドル、間接費用が約271億ドルです。論文はこの総額を、マレーシアの国内総生産(GDP)の10.5%に相当するとしています。

ただし、間接費用の主要推計には1.28という上乗せ係数がかかっています。論文はこれを、生産性損失を過大に見積もる可能性のある上限値と位置づけています。係数を使わない場合、間接費用は約212億ドル、総負担は約360億ドルになります。

負担は少数のリスク要因に集中していました。糖類のとりすぎに起因する病気が約230万件で最も多く、食塩のとりすぎ(約130万件)、喫煙(約110万件)が続きます。この3つで原因となる病気全体の62%を占めました。費用面では糖類が約120億ドルで最大、喫煙が約74億ドルで続きます。喫煙の負担は特に生産性の損失によるもので、間接費用(約53億ドル)が直接医療費(約21億ドル)を大きく上回りました。

食事と身体活動がWHOの推奨を満たし、喫煙者が全員低曝露の代替製品に切り替えるという仮定のもとでは、年間約64万7千件の病気と約37億ドルの費用を防げると推計されました。これは原因となる病気件数の約8%、費用の約9%にあたります。防げる費用はリスク別に、喫煙が約11億9800万ドル、糖類が約9億5800万ドル、食塩が約5億8500万ドルでした。

今回の推計は、マレーシアのこれまでの評価よりかなり大きな負担を示しました。ただし著者は、対象とする病気の範囲や基準年、生産性の評価方法などが異なるため、単純には比較できないと注意を促しています。また、自己申告による喫煙率を過少申告の可能性を踏まえて補正した結果、喫煙関連の直接医療費は先行研究の報告より大きくなりました。自己申告だけに頼る推計は費用を低く見積もるおそれがある、と論文は指摘しています。

この研究が示すこと

この研究は、マレーシアで生活習慣に関わる病気の負担が医療費にとどまらず、働く世代の生産性にも大きく及ぶ可能性を、数字で示しました。とりわけ、予防できる余地が糖類・食塩・喫煙という少数のリスクに集中していることが、優先して取り組む対象を考えるための根拠になると著者は述べています。

論文は、一律の課税や情報提供、規制だけでは集団の行動を大きく変えるには不十分かもしれないとしています。そのうえで、消費量を減らすだけでなく、同じ種類の製品の中でよりリスクの低いものへ選択を誘導する考え方を、補完的な政策として検討する価値があると論じています。ただし、たばこに関する試算は特定の製品を推奨するものではありません。たばこやニコチンに無リスクのものはないことも、論文は明記しています。

原著論文の著者・所属:Evan Lau(Department of Economics, Faculty of Economics and Business, Universiti Malaysia Sarawak; Faculty of Accounting, Ton Duc Thang University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Evan Lau. Malaysia's silent epidemic: the staggering cost of unhealthy lifestyles. Frontiers in Health Services 2026-11-03. DOI: 10.3389/frhs.2026.1998361. 原著ライセンス:CC BY.