この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of clinical lipidology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を調べた研究か

家族性高コレステロール血症(FH)は、遺伝的な要因でLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール、以下LDL-C)が著しく高くなる病気で、若いうちから動脈硬化による心臓や血管の病気が起こりやすくなります。そのため、臨床的・検査的にFHが疑われる場合には、遺伝子検査や早期のコレステロール低下治療を行うことが推奨されています。

一方で、食事の影響だけでも重度のLDL-C上昇が起こり、FHとよく似た見かけになることがあります。著者らが注目したのは「リーン・マス・ハイパー・レスポンダー(LMHR、やせ型の過剰反応者)」と呼ばれる状態です。これは糖質を1日50g以下に制限するケトジェニック食をとる際に、LDL-CとアポリポタンパクB(ApoB、LDLなどの粒子1個ごとに1つ付いているタンパク質で、粒子の数の指標になります)が大きく上昇する現象で、通常はやせていて代謝が健康な人、HDLコレステロール(いわゆる善玉、以下HDL-C)が高く中性脂肪が低い人に見られるとされてきました。報告されている目安はLDL-Cが200mg/dL超、HDL-Cが80mg/dL超、中性脂肪が70mg/dL未満という組み合わせです。

著者らは、ケトジェニック食の実践中に重度の高コレステロール状態となり、FHの疑いで紹介されてきた西ヨーロッパの患者3人について、この典型的なLMHRの検査基準に当てはまるかどうかを含めて経過をまとめ、症例シリーズとして報告しました。

3人の患者で何が報告されたか

論文によれば、3人はいずれも典型的なLMHRの3条件をそろって満たしていませんでした。1人はケトジェニック食を始める前は過体重(BMI 29.3)で、減量目的に糖質制限を始め、3か月で体重が95kgから72kg(BMI 22.2)に減っていました。1人は紹介時のBMIが19.8で正常範囲の低いほうにあり、もう1人は食事開始前のBMIが24.1で正常範囲だったものの、糖質を1日20g未満に制限する期間を経て、BMI 16.8まで著しくやせた状態になっていました。

ケトジェニック食の実践中のLDL-Cの最高値は、364mg/dLから682mg/dLの範囲でした。いずれも紹介元の医師から提供された検査値です。たとえば1例目では総コレステロール456mg/dL、LDL-C 364mg/dLが報告され、別の例ではLDL-Cが682mg/dLまで上昇し、総コレステロールは703mg/dLに達していました。3例目では総コレステロール691mg/dL、LDL-C 561mg/dL、ApoB 290mg/dLが報告されています。

そして3人に共通していたのが、糖質をある程度戻した後の変化です。コレステロールを下げる薬を始めることなく、LDL-CとApoBが大きく下がりました。1例目ではLDL-Cが168mg/dL、その後115mg/dLとなり、果物とオートミールを加えた2例目ではLDL-Cが138mg/dL、ApoBが98mg/dLに、3例目ではLDL-Cが127mg/dL、ApoBが98mg/dLとなり、約1年後もLDL-Cは130mg/dLでした。なお1例目ではこの時期に自己免疫性の甲状腺機能低下症が新たに見つかり、甲状腺ホルモンの補充が始められています。

著者らは限界も明記しています。食事内容は患者の自己申告で、糖質・総脂質・飽和脂肪酸の摂取量は正確には分かっておらず、糖質を戻した量も数値化されていません。検査は標準化された手順で測られたものではなく、遺伝子検査や血管の画像検査、その後の発症に関するデータもありません。食事を意図的に再び変えて反応を確かめる試験も行われていません。

この報告が示していること

著者らの結論は、ケトジェニック食に伴う重度の高コレステロール状態が、これまで考えられてきたLMHRの典型的な枠の外でも起こりうるということ、そしてそれがFHと非常によく似た見かけになりうるということです。実際、3人はいずれもFHの疑いで専門医に紹介されるほどの数値でした。

論文は、成人になってからケトジェニック食の期間に重度のLDL-C上昇が現れたこと、腱にできるコレステロールのこぶ(腱キサントーマ)がないこと、若くして心血管疾患を起こした家族歴が乏しいか無いこと、糖質を戻すと速やかに改善したことは、FHらしくない所見ではあるが、FHを除外できるものではないと述べています。糖質を戻してもLDL-Cが高いままの場合、身体的な所見がある場合、家族歴がFHを強く示唆する場合には、遺伝子検査を行うことは妥当だとしています。

したがって著者らは、重度の高コレステロール状態の患者を診るときには、FHと診断してしまう前に、食事の内容と体重の変化を記録し、甲状腺の機能異常など別の原因がないかを確かめるべきだとしています。同時に、これはケトジェニック食そのものを否定する議論ではないとも明言しており、肥満や2型糖尿病では管理された糖質制限が有益な場合があることに触れています。問題になるのは、代謝の悪化を伴わないままApoBとLDL-Cが極端に上がる、比較的まれなケースだという整理です。

そのうえで著者らが強調するのは、ApoBを含むリポタンパクが動脈硬化の原因となることが分かっているため、食事によって生じた重度のApoB上昇を無害と決めつけるべきではないという点です。まず食事の調整(適度な糖質の再導入や、必要に応じた飽和脂肪酸の減量)と二次的な原因の是正を行い、難治性てんかんの治療などで医学的に厳格なケトーシスを続ける必要がある場合には、患者と相談しながら薬でApoBを下げる治療も検討する、という慎重な姿勢です。この3例は、食事という身近な要因が遺伝病と見分けがつきにくい検査結果を生みうることを具体的に示しています。

著者:Benjamin Lechner(Department of Medicine IV, LMU University Hospital, Munich, Germany (Benjamin Lechner, Rubinstein, Parhofer, and Vogt). Electronic address: [email protected])、Katharina Lechner(DZHK (German Centre for Cardiovascular Research), Partner Site Munich Heart Alliance, Munich, Germany (Katharina Lechner); TUM School of Medicine and Health, Technical University of Munich, Munich, Germany (Katharina Lechner))、German Rubinstein(Department of Medicine IV, LMU University Hospital, Munich, Germany (Benjamin Lechner, Rubinstein, Parhofer, and Vogt))、Klaus G. Parhofer(Department of Medicine IV, LMU University Hospital, Munich, Germany (Benjamin Lechner, Rubinstein, Parhofer, and Vogt))、Anja Vogt(Department of Medicine IV, LMU University Hospital, Munich, Germany (Benjamin Lechner, Rubinstein, Parhofer, and Vogt))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Benjamin Lechner, Katharina Lechner, German Rubinstein, et al. Severe diet-induced hypercholesterolemia mimicking familial hypercholesterolemia in atypical lean mass hyper-responders on ketogenic diets: A case series. Journal of clinical lipidology 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.jacl.2026.09.002. 原著ライセンス:CC BY.