ケトジェニック食(高脂肪・低炭水化物の食事法)は、体重管理や血糖コントロールへの関心から広く注目されてきました。しかし脂質異常症(高脂血症)を抱える人において、この食事パターンが脂質や血糖、炎症状態にどう影響するかは、これまでの研究でも結果が一致していませんでした。さらに、頻尿や膀胱の過活動といった下部尿路症状との関連については、ほとんど調べられてこなかった領域です。今回、米国の大規模健康調査データを用いて、高脂血症を持つ成人におけるケトジェニック食の比率と、過活動膀胱・夜間頻尿との関連を検討した研究が発表されました。

研究チームは、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2005年から2018年までのデータから、高脂血症のある成人17,633人を対象に分析を行いました。ここでの『ケトジェニック食比率(KDR)』は、実際にケトジェニックダイエットを実践しているかどうかではなく、日々の食事に含まれる脂質・タンパク質・炭水化物の量から計算式(0.9×脂質+0.46×タンパク質を、0.1×脂質+0.58×タンパク質+炭水化物で割った値)によって算出された、食事内容の『ケトジェニック度合い』を示す指標です。この指標と、過活動膀胱および夜間頻尿の有無との関係を、重み付けした多変量ロジスティック回帰モデルで解析し、非直線的な関係がないかも曲線回帰の手法で確認しました。

KDRが高いほど症状が少ない傾向

解析の結果、KDRが高い人ほど過活動膀胱・夜間頻尿の頻度が低い傾向が示されました。標準化した連続変数として扱った場合、KDRが1標準偏差上がるごとに、過活動膀胱のオッズ比は0.93(95%信頼区間0.88〜0.98)、夜間頻尿のオッズ比は0.92(95%信頼区間0.88〜0.96)と、いずれもわずかに低下する関連が見られました。KDRの値で4つのグループに分けて比較すると、最も高いグループ(Q4)は最も低いグループ(Q1)に比べて、過活動膀胱のオッズ比が0.76、夜間頻尿のオッズ比が0.71となり、より明確な差が確認されています。また過活動膀胱については、KDRが0.215という値を境に関連の強さが変化する非直線的なパターンが見られた一方、夜間頻尿についてはより単純な直線的な逆相関が観察されました。喫煙状況についても調べられ、夜間頻尿との関連は元喫煙者や現喫煙者でより強く現れることが示されています。

3つの媒介経路という視点

この研究のもう一つの特徴は、KDRと排尿症状との関連が、具体的にどのような体内の仕組みを介して生じている可能性があるかを分析した点です。研究チームは、アルブミン補正アニオンギャップ(代謝状態を反映する血液指標)、うつ症状、そしてフレイル指数(心身の脆弱性を示す指標)という3つの経路に着目し、これらが関連の一部を説明するかどうかを媒介分析という手法で調べました。その結果、過活動膀胱との関連については、アルブミン補正アニオンギャップが15.48%、うつ症状が12.17%、フレイル指数が19.36%を説明する形で、それぞれ部分的に媒介していることが示されました。夜間頻尿についても同様に、それぞれ13.10%、8.52%、17.87%の媒介割合が報告されています。いずれも関連全体を説明し尽くすものではなく、あくまで一部分に関わる経路として位置づけられています。

この研究をどう読むか

この研究は、ケトジェニック食の比率が高い食事パターンが、高脂血症を持つ人において過活動膀胱や夜間頻尿の少なさと関連している可能性を示すものですが、あくまで横断的なデータに基づく分析であり、食事が症状を引き起こす、あるいは改善するという因果関係を証明したものではありません。論文の著者らも、これらの知見を検証するにはさらに前向き研究(追跡調査)が必要だと述べています。また対象は米国の成人であり、今回のデータからは日本の食習慣や日本人集団への当てはまりについては直接読み取ることはできません。研究を行ったのは中国・浙江省寧波市の寧波医学中心李恵利医院に所属する研究者らです。

過活動膀胱や夜間頻尿は加齢とともに増える身近な悩みですが、その背景には代謝状態や心理面、心身の衰えといった複数の要因が絡み合っている可能性が、この研究の媒介分析からもうかがえます。食事パターンと下部尿路症状との関連は、まだ研究が積み重ねられ始めた段階のテーマであり、今回の結果も一つの手がかりとして受け止めるのが適切といえるでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yang Sun, Min Yin, Libin Zhou. Association between ketogenic diet ratio and overactive bladder and nocturia among U.S. adults with hyperlipidemia: a multiple mediation analysis of metabolic, psychological, and frailty pathways. ニュートリション・アンド・メタボリズム (2026). DOI: 10.1186/s12986-026-01210-4. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.