この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:The Microbe
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
この総説が扱おうとしたこと
発酵食品やヨーグルトの話題でよく耳にする「乳酸菌」は、学術的には乳酸菌(LAB:lactic acid bacteria)と呼ばれる細菌のグループです。著者らの総説は、この乳酸菌について、どこから採取するか(分離)、どの菌かを見分けるか(同定)、性質を調べるか(性状解析)、安全性をどう制度的に扱うか(規制)、そして産業でどう使うか(応用)という一連の流れを、ひとつの見通しのもとに整理することを目的としています。
この論文は新しい実験データを報告するものではなく、既存の知見を見渡してまとめる「総説(レビュー)」です。したがってここで紹介する内容は、著者らが整理・報告した枠組みであり、個別の菌株についての新規の測定結果ではありません。
乳酸菌はどこにいて、どうやって見分けるのか
著者らは、乳酸菌が特定の場所に限られた細菌ではなく、植物、発酵食品、そしてヒトの体といった多様な生態系に広く分布していると述べています。つまり、研究者が乳酸菌を手に入れようとするとき、採取源の候補は非常に幅広いということです。
一方で、乳酸菌を培養して扱うには難しさがあります。著者らによれば、乳酸菌は栄養要求が複雑で、どの菌にも通用する「万能の培地(菌を育てるための栄養液や固形の土台)」をつくることが難しいという課題があります。この事情が、目的の菌だけを選んで育てやすくする(選択性を高める)工夫や、持続可能な代替素材を培地に使おうとする研究を促している、と総説は説明しています。
見分け方については、顕微鏡での観察や生化学的な性質を調べる古典的な方法と、遺伝子の情報を読む分子生物学的な方法の両方が使われていると著者らは整理しています。後者の代表例として挙げられているのが16S rRNA遺伝子の塩基配列解読です。これは細菌が共通して持つ遺伝子の一部を読み取り、その配列の違いから菌の種類を判別する手法です。
安全性をめぐる制度の扱い
食品や健康関連の用途で菌を使う場合、安全性をどう判断するかが問題になります。著者らは、こうした判断を体系立てて行うための制度的な枠組みとして、米国のGRAS(Generally Recognized as Safe:一般に安全と認められる、という位置づけ)と欧州のQPS(Qualified Presumption of Safety:一定の条件のもとで安全と推定する、という考え方)を挙げています。
ただし総説は、こうした枠組みがあっても、安全性は最終的には菌株レベルで確立されなければならないと述べています。同じ種に属していても菌株ごとに性質が異なりうるため、グループ全体への評価で個々の菌株の安全性を代替することはできないという趣旨です。また、ブラジルのように、これらの原則を自国の規制制度のなかに取り込んで運用している国もあると紹介されています。
何に使われているか、そしてこの整理の意味
応用面について、著者らは乳酸菌が生み出す代謝産物(菌が活動する過程でつくり出す物質)が食品の保存に利用されること、また健康の増進を目的とするプロバイオティクスとしての用途があることを挙げています。総説はこうした応用を、さまざまな産業にまたがるものとして位置づけています。
この総説の意味は、乳酸菌をめぐる話題が「どこから採るか」「何の菌か」「安全と言えるか」「どう使うか」という別々の問題として語られがちなところを、ひとつながりの課題として示した点にあります。培地づくりの難しさは同定や性状解析の前提に関わり、同定の精度は菌株レベルでの安全性評価を支え、その評価が応用の土台になります。著者らの整理は、乳酸菌の利用を考えるうえでどの段階にどんな論点があるのかを見渡すための地図として読むことができます。
著者:Fabiana França(Centro de Ciências e Tecnologias para a Sustentabilidade, Universidade Federal de São Carlos, Rodovia João Leme dos Santos, Km 110 – SP-264, Sorocaba, SP 18052-780, Brazil; Laboratory of Food Microbiology Advanced Studies (FoMAS), Centro de Ciências da Natureza, Universidade Federal de São Carlos, Rodovia Lauri Simões de Barros, Km 12 – SP189, Buri, SP 18290-000, Brazil)、Natan de Jesus Pimentel-Filho(Laboratory of Food Microbiology Advanced Studies (FoMAS), Centro de Ciências da Natureza, Universidade Federal de São Carlos, Rodovia Lauri Simões de Barros, Km 12 – SP189, Buri, SP 18290-000, Brazil; Correspondence to: Centro de Ciências da Natureza, Universidade Federal de São Carlos, Rodovia Lauri Simões de Barros, Km 12 – SP189, Buri, SP 18290-000, Brazil.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fabiana França, Natan de Jesus Pimentel-Filho. Isolation, identification, characterization, regulation, and application of lactic acid bacteria. The Microbe 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.microb.2026.100794. 原著ライセンス:CC BY.