著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
大豆を主原料とした代替肉は、押出成形という加工技術によって肉のような繊維状の食感を作り出しています。なかでも「高水分押出成形」は、水分を多く含んだ状態でタンパク質を加熱・混練しながら細長い繊維構造を形成させる方法で、代替肉づくりの中心的な技術として使われています。今回紹介する研究は、この加工工程に食用キノコの一種であるコプリヌス・コマータス(ヒトヨタケの仲間として知られる種)の副産物を加えることで、大豆分離タンパク質の構造や食感がどう変化するかを調べたものです。福建農林大学食品科学学院(中国)の林静怡氏らの研究チームによるもので、フード・ケミストリー・エックス誌に2026年8月に掲載予定です。
コプリヌス・コマータスは食用キノコとして利用される一方、加工の過程で副産物(廃棄・未利用部位)が生じます。これを大豆分離タンパク質に混ぜて高水分押出成形にかけると、タンパク質の分子がどのように並び直し、集まり方が変わるのかを、研究チームは構造レベルで分析しています。
副産物の添加量によって結果が正反対に
この研究で示された最大のポイントは、副産物の添加量によって効果の方向性がはっきりと分かれたことです。添加量が20%以下の場合、副産物は大豆タンパク質の分子の並び方を整え、規則正しい凝集を促す方向に働いたと報告されています。具体的には、タンパク質の構造の中でも「β-シート」と呼ばれる規則的な折りたたみ構造の形成が進み、押出成形後の製品でも繊維状の構造がよりはっきりと形成され、弾力や噛みごたえ(咀嚼感)が向上したとされています。
一方で、添加量が30%以上になると状況は逆転します。過剰な相分離(成分同士がうまく混ざり合わず分かれてしまう現象)や立体的な障害が生じ、タンパク質同士がつながって作る網目状の構造(マトリックス)の連続性が壊れてしまうと報告されています。その結果、繊維構造が乱れるだけでなく、食感が硬くなりすぎたり、製品の色合いが変化したりする現象も確認されたとのことです。
なぜ構造が変わるのか:メカニズムの分析
研究チームはさらに、なぜこうした違いが生じるのかについても分析を行っています。それによると、副産物は加工中の系全体の流動特性(レオロジー的挙動)に影響を与え、タンパク質がランダムに固まってしまうのを抑え、ポリペプチド鎖(タンパク質を構成する分子の鎖)がせん断方向、つまり押出機の中で力がかかる方向に沿って規則正しく並ぶよう導く働きがあると考察されています。また、製品内部の水分の分布を最適化する効果もあったとされ、これらが組み合わさることで、秩序立った安定な繊維構造の形成につながったと説明されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、あくまで実験室レベルでの押出成形プロセスとタンパク質構造の関係を調べた基礎研究であり、特定の健康効果や商品としての優位性を保証するものではありません。著者らは、この成果がコプリヌス・コマータス副産物の高付加価値な利用や、植物性タンパク質製品における繊維構造の制御に向けた理論的な基盤を提供するものだと位置づけています。添加量の最適な範囲(20%以下が望ましい方向性であること)が示された一方、30%以上での品質低下も明確に報告されており、副産物の配合には適切なバランスが必要であることがうかがえます。一つの研究であり、実際の製品化や食感・風味の総合評価についてはさらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
この研究では、通常は廃棄されうるキノコ由来の副産物を、代替肉の食感を左右する構造形成剤として活用できる可能性が示されました。添加量を適切に管理することで、大豆タンパク質の繊維構造や弾力性を高める方向に働く一方、量が多すぎると逆効果になるという、加工技術における「さじ加減」の重要性を示す結果だといえます。食品副産物の有効活用と、植物性食品の食感改良という両方の観点から、今後の研究の広がりが注目されるテーマです。
著者:Jingyi Lin(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)、Changrong Wang(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)、Xiaoyun Zhen(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)、Mengfan Lin(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)、Jingxuan Zhang(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)、Zebin Guo(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou, Fujian, PR China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jingyi Lin, Changrong Wang, Xiaoyun Zhen, et al. Structure modulation and physicochemical regulation: study on the structure-function relationship of soy protein isolate regulated by Coprinus comatus by-products in high-moisture extrusion. フード・ケミストリー・エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104346. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.